昨今の経済情勢,企業動向,雇用情勢等,景気はマクロ的には若干の回復基調にあるとしても,すべての産業企業が,回復の波に乗れるとは限らず,減速経済下における企業間競争は,ますます熾烈化し,まさに各企業にとって企業環境は,厳しい状況下におかれている。
このような状況にあって,企業は何としても生き伸びていかなければならない。企業目的達成のために,いかにして利益確保をはかるか。各企業共,経営者はもちろん,幹部,第一線にいたるまで,全組織力,総合力を結集,一丸となって必死に取りくんでいるのが,今日の姿といえよう。
そして今や"VE"は,単なる改善手法としてのみでなく,すでに大多数のトップマネジャーが,認識を新たにし"経営戦略"の柱としての位置づけと,同時に実践への真剣な取りくみ姿勢がうかがわれる。
開発VEについては,関西支部の主催で行なわれた「開発VE実践研究会」で,1年有余にわたり研究され,その成果報告も"新製品開発のためのVEマニュアル"として発行されている。また,既発表のVE研究論文の中にも,開発段階のVEに関するものがあり,当社においても,種々参考にさせていただいている。しかし,当社の生産形態は個別受注生産を主体とするもので,小規模ながら「システムもの」と呼ばれるようなものも,かなりの件数におよんでいるという特殊な事情があるので,開発VEの展開に当っても,当社なりの工夫が必要であった。
当社での開発的要素を含んだ設計は,主に次のような段階で行なわれている。
(1) 引合い--構想設計 見積または応札(開発要素を含む)
(2) 新規受注--開発設計--生産設計--製造
(3) 基礎研究--製品化構想--開発設計
(1),(2)の場合は,いわゆる本格的な大プロジェクトとしての開発設計とはいえないものもあるが,発生件数としては多い。したがって開発設計に際しては,
・技術的革新テンポが急速で,絶えず新技術要素を折込んだ開発設計を行なっていかなければならない。
・特殊システムものなどがあり,繰返し生産が少なく,同時に件数としては増大する。
・他律的な時間制約を受ける。
など,設計に当っては,当社なりの事情がある。
当社のVAも,定着期から発展期へと進み,過去1年余り,川上作戦としてのVAの展開を進め,開発VA重点にVA活動を行なっている。システムものの場合などでは,実際の開発設計を数チームで分担するなどの例もあり,それぞれのチームへの適切なコスト配分の方法をいかにすべきか,機能配分なり,機能区分は,どのようにするのが合理的といえるのか。これらの問題については,寡聞にして既成の手法があるのかどうかが分らず,自主開発的に各種の方策を試みている。
また開発段階のVAについて,もう1つの困難がある。このことについては,既に発表されている開発VE手法の中にもふれられているが,ファーストルックVAの場合,VA対象機器が具体的な形となっておらず,ユーザーの要求は,感覚的で定量的特性として表示されていない場合が多い。われわれは,このようなユーザーの要求について,その本質をとらえ,機能として表現し,その機能をいかにして定量化し,具体的なものとして形而化して行くか,その方法過程が,VAチームメンバーに理解されやすい簡便な方法はないかということの検討をしてみた。
本稿においては,開発段階におけるVAの中で,
・機能とコストの合理的な分配
・ファーストルックの場合の「要求機能」と「物のもつ機能」とを結びつける方法
という2つの項目について,実施例を加えて述べる。
昭和30~40年代の高度成長期において,生産の量的拡大を背景とした積極的な設備投資を中心に,生産の効率化を達成して来たわが国の企業は,石油危機を契機に,高度成長から低成長へと急激な転換を迫られ,従来とは全く異った観点から,経営効率化の努力を要請されている。
低成長下における経営効率化の課題-まさに今後のわが国産業の死命を制するこの課題-を解決するために,「3Mのインプット減少」による生産効率化に,より真剣な態度で取り組む必要があろう。
当三菱電機長崎製作所においても,安定成長期に対処すベく,量的拡大から質的充実への体質改善を積極的に行なっている。
当所で生産している誘導電動機・交流発電機・タービン発電機等の回転電気機械は,60年の生産経歴を有し,この間の技術の蓄積が当所経営の基盤となって,信頼性の高い製品を世に送り出している。この技術力を背景として,大幅なコストダウンを行なうことが,今後の困難な企業環境下における生産面での最重要課題である。
従来,当所のような多品種小量生産工場では,標準化の概念が生産効率化の基本的思想として生き続けているが,根源的に問題解決を行なうためには,コストの源流となる製品設計の場において,「標準化」と「理想設計」を同時に統合することが必要となる。すなわち「最少インプットの理想設計」と「部品の標準化」とを"同時検討"し機能指向型の少種低コストの製品を図面化して,GT的な生産方式を追求し実現することが,多品種小量生産工場効率化のポイントであると考えている。
以下「中形モーターの端子箱」をモデルにして,VEによる「理想設計」と「標準化」の統合により,大幅なコストダウンと部品種類数の縮減を達成した1事例を紹介する。
昭和35年に当社に導入されたVEは,やがて展開期に入り,現在は全く定着化しているといえます。当録音機事業部においても,44年にVE担当者を設置以来,設計VEシステムが確立されており,日常のVE活動も板についた感じになっております。新製品開発システムの中に,VEをシスティマティックに組込み,設計段階におけるVEを,設計者が容易に取り組める体制を作りあげております。しかしながら,ここに到るまでには,有為変転を経ており,数多くの困難があった訳です。その中で,われわれは,あくまでもVEの必要性を説き,設計者と一体になって行動し,設計者のVEに対する考え方を変えることに成功しました。
当論文では,設計段階におけるVEの見直しを行ない,新製品開発システムを改善して,成果をあげ得た経過について報告します。
VEは当初セカンドルックのVEより始まり,現在ではファーストルックのVEが当然のこととして行なわれている。しかし,いくらファーストルックのVEを行っているとは言え,その進め方によっては効果において著しく大きな差を生ずるのは当然である。と言うのはファーストルックのVEには,設計段階のVEと企画段階のVEの2つがあるからである。
設計段階のVEとは,すでに企画決定された商品の機能,品質,外観等を維持しながらVE活動をする方法であるのに対し,企画段階のVEは,これから企画しようとする商品の機能,品質,外観などについてもVE活動の範囲内に入れ,それらの妥当性まで追求する方法である。
企画段階のVEは,設計段階のVEよりさらに一歩進んだ方法であり,それはそれなりに多くの問題点を持っているが,当社において過去数年間にわたって実施して来きた方法をまとめてみた。なお本論中の事例は,当社白黒テレビ事業部のものである。
設計者の中には,VEと言う言葉を聞いただけで,拒絶反応を示す人が多くないだろうか……。古くから言われていることであるが,設計者は,非常に繊細な注意と,高度な知識をもって独創的な設計をするが,一方,非常に封建的であり,かつ,自己陶酔型が多いと言われている。すなわち,自ら設計したものは,全て最善であると過信しているが,案外コスト意識には,無頓着ではないだろうか。このため,細かなところまでは注意を払うが,一方では,コスト的に大きな見落しをしてしまうケースが多いのである。これは,設計者が,自己本位の城を築き,固定観念に固まりきったためのものと考えるが,現在のような情報化時代に,新技術,新材料が氾濫している時,自らの設計に,上手に適用し,必要な情報を取捨選択して,その時代時代の技術を吸収消化していけるであろうか,と疑問を感じざるを得ない,そればかりか,企業のコスト力を低下させる一因となっていくものと考えられる。近年発行されている,VEに関する種々文献,レポート等に目を通すと,設計あるいは企画段階でのVEとか,1'ST-LOOKのVEと言う表現が,さかんに使用されているが,その意味することは,要するに,新商品を開発するに当っては,同業他社よりも,コスト力の高い商品を,早期に,しかもタイムリーに開発するには,VE技法をフルに適用しなければ,企業競争に打勝っていけないと言うことを意味していると確信する。
一般によくいわれているように,製品コストは設計仕様の段階で,ほぼ80%は決まってしまうといわれている。製品設計において,材料の仕様,製法,精度などが指定されれば,それ以後の調達,あるいは生産などの段階における,原価引下げも設計仕様に制約を受け,大きな期待ができないのが,一般的である。
そこで,設計者は製品のもっている機能を充分に分析し,その達成方法の最適化を狙う必要がある。その結果,設計の良否は,製品のコストに大きな影響を与えることになる。まして昨今のごとく,物価上昇の状況においては,特に必要機能(二次機能も含む)を最低のコストで達成すべく,製品設計をすることが必要であり,VEの目的に合致する所以である。