論文
1. 最初に三つの言葉を提示しよう。多くのVErは,VEを論ずる時,これは的はずれであると合点し,とまどうかも知れぬが。
(1) 正しいはかりと天びんとは主のものである,袋にあるふんどうもすべて彼の造られたものである。
(2) 相はかることがなければ,計画は破れる,はかる者が多ければ,それは必ず成る。
(3) 全地は同じ発音,同じ言葉であった。時に人々は,東に移り,シナルの地に平野を得て,そこに住んだ。彼らは互いに言った。「さあ,れんがを造って,よく焼こう。」こうして彼らは,石の代りに,レンガを得,しっくいの代りに,アスファルトを得た。彼らは,また言った,「さあ,町と塔とを建てて,その頂きを天に届かせよう。そして,われわれは名を上げて,全地のおもてに散るのを免がれよう。」時に主は下って,人の子たちの建てる町と塔とを見て,言われた,「民は一つで,みな同じ言葉である。彼らはすでに,この事をしはじめた。彼らがしようとすることは,もはや何事も,とどめ得ないであろう。さあ,われわれは下って行って,そこで彼らの言葉を乱し,互いに言葉が通じないようにしよう。「こうして主が彼らを,そこから全地のおもてに散らされたので,彼らは町を建てるのをやめた。これによって,その町の名はバベルと呼ばれた。
以上聖書より
2. VEをツールとしてVErが自からの生命を企業に奉げんとしている時,"VEを経営の中に組み込み体系化しなさい"と言うことや,"VEをコストダウンプログラム,また,新商品開発プログラムで充分活用しなさい"と言うようなことは,よく耳にすることである。VEの具体的な展開方法については,確かに,充分に論議し,研究しなければならないであろうが,われわれは,今,VEの根本,VEの本質までさかのぼって,討議する必要もあるのではなかろうか。
3. V=F/C(V:価値の尺度,F:要求機能,C:総コスト)
これは,われわれVErが見慣れている式である。ではVErに尋ねよう,「価値が高められた,損われたというが"価値をはかる正しいはかりと天びんは何んですか。何を基準にして価値を判断していますか。機能とコストのバランスによる?それならば,そのバランスは何を基準にして判断していますか」
次に尋ねよう,「あなたがたは,よく計画を立てるが,それは生かされていますか。実施され,成果を得ていますか。計画が破れる? どうしてですか?」
最後に尋ねよう,「あなたがたは懸命に働らいているようですが,一体,何をしているのですか。何を造っているのですか。
4. 開放経済のなかで,VEはあらゆる時と場で適用され,いろいろなものをどんどんと生み出していく。しかしながら,本質的な問題が解決されないままのVEは,VEと呼ぶだけの値打ちをも持てなくなるのではないかと考えるのである。
この問題を解きながら,ここに,これからのVEのあり方として,Value Design(VD)を提唱する。
5. Value Design(VD)という言葉自体は,過去において,何人もの人々によって,述べられたことなので,何も新しいことではない。ただ過去においては,デザインというので,即,物の形態や色彩をどうすべきか,などの点とVEとの関係において,問題をとらえていた感が強く,デザインの本質までには触れていなかったようである。
ここでいう "Value Design" とは,本物のVEとは,デザインの本質を包含しなければならぬことを意味し,これが,今後のVEの姿勢であろうと考え,推奨したいのである。
目次
- -はじめに-
- 1. 本質的な問題の提起を
- 2. 価値をはかる,はかりは何か
- 2-1 はかりは人間である
- 2-2 見えないものに光を与えなさい
- 2-3 人間には人間の場を与えなさい
- 3. 何を造るべきか
- 3.1 必要なもののみを造りなさい
- 3.2 食欲には警戒しなさい
- 4. どのようにVDを展開するのか
- 4.1 岩の上にVEの土台をつくりなさい
- 4.2 VErは基本に忠実でありなさい
- -おわりに-
発行年
1970年 VE研究論文集 Vol.1著者
- 三菱自動車工業(株)
名古屋自動車製作所 総務部資材一課 - 三田徹
カテゴリー
- マネジメントとVE
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