1.目的・背景・概要
2004年10月に発生した新潟県中越地震によって避難所での生活を余儀なくされた被災者のために、紙の家を建てる運動が進められた。その後も避難所用の紙の家には改良が加えられ、行政を動かそうとしている。
避難所生活を送る被災者に対して実施した聞き取り調査では、長期にわたる大空間での生活にストレスを感じている人が多く、いくつかの要望が挙がった。
2.着眼点、改善ポイント
体育館などの大きな空間での集団生活を基本としながらも、その一画を紙や布等の材料による単位構造で仕切り、独立した生活空間を構成した。
材料は、ハニカムボード、ロール紙、木綿の布など身近で使用されている標準品で、多くの部材がリサイクル可能である。
【基本機能・プライバシーを守る
・空間を仕切る】
3.改善事例
改善前:学校の体育館などの大きな空間全体を複数の家族等で同時に共有する。
改善後:小住空間を段ボールと木綿の布で構成した。床にも畳に相当するつくりを形成した。
効果:ストレスの解消に有効な要望が実現できる。
・プライバシーの守られる空間が欲しい
・夜間でも照明を使える勉強部屋が欲しい
・女性用の更衣室や洗濯物干し場が欲しい
・子供の遊び場が欲しい
4.VEとの関連(5原則)
(1)使用者優先の原則
体育館全体を使用する者はいない。細分化された空間ごとに使用者=被災者が望む姿で使用できる。紙や布など身近な素材を使用しており、人に安心感を与える。
(2)機能本位の原則
雨風をしのいだ体育館の中に独立した生活空間を確保する。ある程度のものを短時間で簡便に準備・完成できることが重要。
(3)創造による変更の原則
身近にある一般的な素材を活用して、必要な機能を果たすための住空間を構成している。材料はリサイクル可能なものを使用している。
(4)チームデザインの原則
慶応義塾大学の坂研究室のメンバーが改良を重ね、共同で部品調達、試作を繰り返した。組立現場はまさにチーム一丸。
(5)価値向上の原則
体育館などの大きな空間内に安価な構成の紙の家を作ることができる。独立した空間を確保し、被災者の避難先の空間の価値を向上させた。
5.参考情報
http://www.sfc.keio.ac.jp/visitors/news/articles/20041110_1275.html
震災避難所に「紙の家」を無償提供、日経アーキテクチャー 2004.12.13 P.44