企業の発展は,情報なくして成長しないとまで云われている今日,いかに速く,目的達成のために必要な情報を集めるかにある。それでは,どのような情報を収集したらよいか,ここで取り上げる情報収集は,ただ,やみくもに収集するのでなく,VE活動の機能分析に基づいたアイデアの提案を,ただのアイデアだけですますことなく,使用可能にするための代替案(代替品)の情報収集活動である。
いわばVE活動は情報活動の結集であり,その成果は情報がいかに上手に利用されたか,その巧拙にかかっているといっても過言ではないのである。以下,これら情報収集の利用について述べることにする。
設計段階のVEが,企業にとって経済的かつ最も効果的であることに異論を唱える技術者や経営者はいないであろう。日本を取巻く国際環境の厳しさは,真の意味での,より高い価値の創造を待望しているといっても良いであろう。しかしながら1st Look VEの必要性が多方面から叫ばれている中で,これをはばむ制約条件を克服できず苦慮している企業も案外多いのではなかろうか,これらの原因の大きな要因のひとつに大きな収益が潜んでいることを充分に承知しながら,発売時期などの関連で,見切発車をする例がある。これらはある意味で有効情報を確実に,しかもタイムリーに供給し得なかったバリューエンジニアに,その責任の一端があるともいえる。私は価値の高い商品を世に送り出すため,高度の個有技術と相まって,これらのベースとなるVE関連情報について,収集の方法や供給源を示し,1st Look VEを短期間に,タイムリーに実施するための考察を試みようとするものである。
シャープ株式会社テレビ事業本部に,本格的にVEが導入されたのは昭和39年で,当時はVE自体も日が浅く購買部門と云う,社内の一部門の業務を補助するー技法として導入された。それ以前にも一部の先進的な技術者の間で取上げられていたが,組織としての採用は,この購買によるsecond lookのVEからである。この時はVE活動の範囲の必然性より,コストテーブルの制作による購買基準価格の管理と,VE提案によるものが中心となり,当初よりコストテーブルにはかなりの力をさいていた。
しかし,購買部門のみではFirst lookのVEへの脱皮は果たし切れず,ましてやVE活動を経営の利益計画に直結させる事は困難であった。そこで,VE担当部門の組織が順次移され,現在は経理部門の中にある原価管理グループにおいて行なわれるようになったのである。したがって,当初より続けられていたコストテーブルも,購買価格の基準を設定するのみではなく,VE推進上のコストデータの情報源として,そこに求められる機能も幅広いものとなって来た。これにこたえるべく,昭和44年より新しい構想のもとに,コストテーブルの全面改訂,新制作が進められ,現在では,VE推進上かかす事のできない重要な道具となっている。この様なVE推進上の基軸ともなったコストテーブルについて述べてみたい。
企業経営の健全な運営は,経営計画の綿密な立案と,その実行にあるといえる。企業としては,当然,これ等の原則に従って,健全経営のための運営を必掛けているが,時として,計画に反した予測せざる誤算により,収益確保が困難となり,赤字経営,果ては倒産の事態が発生している。この原因には,計画時点での,万全の予測に基く計画の立案も,予測せざる環境の激変によるものもあるが,実際には,人為的に回避し得る原因もかなり多い。その一つに,技術面での不良,事故がある。
近時,信頼性の思想の普及により,信頼度管理技術が発達し,不良,事故の未然の防止が徹底して来ているが,ややもすると,事故発生を恐れるのあまり,過剰に防衛して,コスト面での破たんを来たすことがある。従って,技術面,コスト面の両面の同時管理が,製品体質の改善には不可欠であり,また,事故の発生を防止することは,工程上のトラブル防止,従って,日程管理の円滑な運営を,附随的に可能ならしめることにもなる。
一方,VA活動は,「機能を損うことなく,最低のコストで達成する」活動であり,コスト,品質の両面を管理して,真の価値改善を計ることである。従って,VAのステップには,改善案のテストや,必要機能(品質,特性も含むと考える。)を保証するステップがある。しかしながら,変更案に対する保証のための,消極的な品質保証体制を,一歩進めて,積極的に,不良,事故の防止を主体とした体制にすることが,「VA,すなわち事故」といった,誤まったイメージの改善に役立たせることができるし,真のトータルシステムとしての価値改善に密着出来るものと考える。
また,VAの対象範囲は,かつての材料費,加工費を対象とした時代から,原価構成比率の変化により,間接費の削減による,経営システムの改善等に指向して来ている。従って,製品原価の周辺コストに対する分析,改善のメスを加えた場合,時として,不良コストが爼上に上ることもある。このような場合,不良コストの削減,歩留りの向上によるトータルコストの削減が,製品価値の改善に結びつくことになり,従って,不良コストそのものを対象としたVA活動も必要であり,VAの基本ステップを,不良,事故防止の場合に適用し得る形に変形したステップの設定は,極めて有意義なことと考え,ここに,適用事例をあげて,ステップの体形を示して,ご批判を仰ぐ次第である。
検討者は2名,検討期間は30時間である。対象機種(カラーテレビ)は,コスト低減の必要があった。そのため,この機種から22項目のVE対象品が選ばれ,各項目ひとつひとつVEする計画がたてられた。シャーシ引出し機構は,そのひとつの項目である。
シャーシ引出し機構各構成部品の情報を収集し,機能定義を行ない,テストまで行なったが,主にその過程の進め方,考え方を中心に記述した。
ステレオ製品の原価の中でキャビネット・コストの占める割合は最大で,シャーシ(アンプ部分〉をしのぐ高価なものである。したがって,企画進行段階でキャビネット・コストの決定は,重要な問題であることは,いうまでもないことである。
では,このキャビネット・コストが,どのようにして煮つめられ,決定されていくのであろうか,また,その過程でVE手法は,どのように使用されるべきなのだろうか。