論文発行年度: 1975年 VE研究論文集 Vol.6

昭和30~40年代の高度成長期において,生産の量的拡大を背景とした積極的な設備投資を中心に,生産の効率化を達成して来たわが国の企業は,石油危機を契機に,高度成長から低成長へと急激な転換を迫られ,従来とは全く異った観点から,経営効率化の努力を要請されている。

低成長下における経営効率化の課題-まさに今後のわが国産業の死命を制するこの課題-を解決するために,「3Mのインプット減少」による生産効率化に,より真剣な態度で取り組む必要があろう。

当三菱電機長崎製作所においても,安定成長期に対処すベく,量的拡大から質的充実への体質改善を積極的に行なっている。

当所で生産している誘導電動機・交流発電機・タービン発電機等の回転電気機械は,60年の生産経歴を有し,この間の技術の蓄積が当所経営の基盤となって,信頼性の高い製品を世に送り出している。この技術力を背景として,大幅なコストダウンを行なうことが,今後の困難な企業環境下における生産面での最重要課題である。

従来,当所のような多品種小量生産工場では,標準化の概念が生産効率化の基本的思想として生き続けているが,根源的に問題解決を行なうためには,コストの源流となる製品設計の場において,「標準化」と「理想設計」を同時に統合することが必要となる。すなわち「最少インプットの理想設計」と「部品の標準化」とを"同時検討"し機能指向型の少種低コストの製品を図面化して,GT的な生産方式を追求し実現することが,多品種小量生産工場効率化のポイントであると考えている。

以下「中形モーターの端子箱」をモデルにして,VEによる「理想設計」と「標準化」の統合により,大幅なコストダウンと部品種類数の縮減を達成した1事例を紹介する。

昭和35年に当社に導入されたVEは,やがて展開期に入り,現在は全く定着化しているといえます。当録音機事業部においても,44年にVE担当者を設置以来,設計VEシステムが確立されており,日常のVE活動も板についた感じになっております。新製品開発システムの中に,VEをシスティマティックに組込み,設計段階におけるVEを,設計者が容易に取り組める体制を作りあげております。しかしながら,ここに到るまでには,有為変転を経ており,数多くの困難があった訳です。その中で,われわれは,あくまでもVEの必要性を説き,設計者と一体になって行動し,設計者のVEに対する考え方を変えることに成功しました。

当論文では,設計段階におけるVEの見直しを行ない,新製品開発システムを改善して,成果をあげ得た経過について報告します。

ステレオ業界は,ポスト・カラーの掛け声に競争が一段と激しくなり,ことある度に,企業内合理化が叫ばれて,VE,標準化等の合理化手法が口にされてから久しい。しかし,実情は,なかなか,これ等の手法の日常化に至らず,それには幾つかの理由が考えられよう。その代表的なものを挙げると,

(1) ステレオ商品は趣味嗜好の多様化商品である

(2) 技術の進歩が早く安定期がとらえにくい

等であろう。ところが,近年生活水準の向上に伴い,商品に対する要求は,ますます多様化し,企業間の新商品企画競争の激化は,商品のライフサイクルを極端に圧縮してきた。その結果は,部品点数の急増と,部品のライフサイクルの短縮化となって,大量一括発注によるコストメリットを無くし,部品在庫の増加と共に,企業体質の弱体化の原因のひとつにもなりかねない。これを決定的にしたのが,オイルショックによる材料費の高騰である。業界内の販売合戦とコスト競争に対処して,当ステレオ事業部も,企業体質強化の長期戦略の一環として,従来のVE,標準化活動をより強化し,展開させることになった。今回の標準化の推進は,商品設計及び生産技術面を中心として実施され,初めてVE手法を適用した柔軟で機動性に富む標準化が試みられて,ようやく第1次目標を達成することができた。本論文では,このVE手法による標準化の実施例を紹介し,実施法の1方法として論じてみたい。

VEの定義では「VEとは,最低の総コストで必要な機能を確実に果たすために製品とかサービスの機能分析と改善に注ぐ組織的な努力である」と唱えて,事務の分野にもVEが適用できるとしている。しかしながら,製品などのハードな対象と比べて,事務に対する適用例は少なく,手法上の問題点の解明についても,十分になされているとはいえない。

事務のVEに対する重要性が認識されてきているにもかかわらず,一般には,経費節減運動に見られるような長距離電話の規制とか,コピー用紙の節約などの節約ムードの醸成を促すといった一時的なコスト低減策がとられているケースが多い。

フジタ工業においては,組織の拡大と情報量の増大に伴なって事務及び手続きの複雑化が進行している。一方,事務・技術を問わず,全社員に対してFVE実践コース(2日間の研修)が実施されたことと相俟って,特に事務部門からも,VE適用範囲の拡大が要請されてきた。

今までにとり上げられたものは,作業所事務の軽減に関するもの,各種事務及び手続の改善に関するもの,組織に関する提言などであるが,本論文では,事務手続の改善について,特に手法の展開の仕方を中心として試案を提起したい。

当社におけるVE活動の現状については,過去数回,この大会で発表してきた。その中でも,特に最近は,BESTよりもBETTERの改善結果をねらって,作業所で数多くVE活動を実施するという方針をとってきている。すなわち,VE計画会議によって,問題点の摘出からVEテーマの選定,3時間VEを用いての改善活動,この両者の組み合わせで,着実に成果をあげてきている。

しかし,現実の問題として,少人数の作業所が数多く存在しており,メンバー不足のためVE活動ができない場合も,しばしば起っている。この解決策としては,物理的にメンバー数を増やす方法と,1人でもできるVE手法の開発と,2通りの策が考えられる。この論文では,前者について簡単に触れ,主として個人VEの考え方,その適用事例を中心に述べてみたい。

今日の過当競争の中で,企業が生き残るには,いかに利益をあげ存続するかによって決定されます。それは,製品の技術,価格,販売力等により左右されます。

特に最近の情勢は,価格競争が表面化してきていることは事実です。この価格競争に打ち勝つためにも1個1個の部品単価が深く追求され,いかにしたら,"VE,コストダウン"ができるか,そのVE活動に多くの期待が寄せられています。

しかし,製品コストは,設計段階での製品仕様,設計によって,ほぼ決定されると言って過言ではありません。

従って,設計段階のVEは,製品コストに大きく影響を与えると共に,企業の原動力の1つとして重視され,今後,一層推進していかなければなりません。

戦後,わが国の経済は,「20世紀の驚異」といわれる程の高度成長を成し遂げ,これを背景として国民の所得は急増し,消費力も旺盛となり,まさに「昭和元禄」を旺歌してきたが,オイルショックを契機とした資源不足による石油製品および関連製品のコスト高に起因する資材費の高勝を招き,そのあおりで消費者物価も狂乱的に高騰した。この結果,需要は下降の一途をたどり,政府の金融引締め策と相まって経済は縮小し,不況時代へと突入した。この物価も最近では落着きをみせてはいるが,国民は現在でも,なお逼迫した生活を余儀なくされている。

さらに,家庭内部においても,物心両面で多くの問題が潜在し,円滑な家庭生活を阻害しているのであるが,これらの問題に対し,現在,各家庭では問題発生後,応急処置的な対策を行なうのみで,抜本的な改善がなされていないのが,実態ではなかろうか。

かかる観点より「考える葦」であるわれわれ人間は,無限の頭脳を駆使して,社会の原点である家庭生活のあるべき姿をデザインし,より価値ある家庭生活を営むよう,あらゆる面で改善することが,いかに大切であるかを真剣に考える時代を迎えていると言えよう。

そこで私は,VE手法を家庭へ導入することに着眼し,「家庭のVE」と題して約2年間にわたり研究し,実施してみた結果,全支出の20パーセントの経費節減を行なうことができたばかりでなく,家庭生活のあるべき姿をデザインし,ほぼ満足する結果が得られたので,その実施内容を説明し,皆様のご批判を仰ぎたい。

監督者にVEを理解させることについて,現在でも疑問を持つ向きが多い。かってQC,ICがスタッフの独占物であった時代と同じ考えである。しかし現在は,QCサークルの活発化により,製造現場でQCが十分に役立ち,大きな成果をあげている事実は否定できない。さてVEについてはどうであろうか。もし,監督者としてVEが理解できないとすれば,教え方が良くないのであり,理解させる工夫が足りないと考えるべきである。このような考え方で,製造現場にVEを導入する工夫が,先進的な企業で始められつつある。

たまたまVE協会関西支部において「製造VE研究会」が持たれ,製造現場にVEを理解しやすい形で導入するための研究が始められたので,これに参加し,当所に導入するための準備をした。この関西支部の研究会を通じ,内容の掘り下げと教育のやり方を研究するとともに,ようやく所内の機運も熟してきたので,昭和49年に実験的に監督者VEセミナーを3回に分けて開催した。"短期実践的"をモットーにしたこのセミナーは,ほぼ予想どおりの成果を収めることができたので,その後も連続してセミナーの開催と,活動の浸透を図っている。

以下,セミナー開催のねらい,内容,評価などを中心に実施状況を述べるので,ご批判,ご叱声を頂だきたい。

昨今の企業をとりまく環境条件は,まさしく,戦後史に一時期を画し,経済混乱は,過去何回かの不況時とは,格段の違いを持った様相を呈している。この事は,もはや,かっての10%を越える高度成長の時代は終り,経済体制の転換を示していると言っても過言ではあるまい。

高度成長時代に培われた感覚での判断は,非常に危険な常識となりつつある。

当社における「VA倍増作戦」の展開も,こうした過去の高度成長時代の常識より脱し,企業をとりまくもろもろの環境条件に,柔軟に,先行的に,対応せんとするもので,"全員参画のVA" "製品総点検のVA"をキャッチフレーズに,昭和49年3月より実施されておる。

ひるがえって,当社におけるVAの発展過程を見るに,十数年前,購入資材費の原価低減を目的に導入された"VA"も,現在では,企業体質の改善を最終目的として,製品損益の改善を主体とした活動に,完全にエスカレートしており,現在,全工場で,期ごとに,1,000以上ものVAプロジェクトが実施され,その成果も,月額30億円余にも達している。

本論文は,こうしたVAプロジェクトの一環としての成果のうち,全社的に使われている部分機能を,共通機能として抽出し,分析した結果を,「横断VA」のステップとして纏めたものである。