論文発行年度: 2005年 VE研究論文集 Vol.36

本格的なIT社会が到来し、スキミング被害やフィッシング詐欺に見られるようなIT絡みのリスクが増大している。このようなリスクは、以前には予想することすらできなかった内容である。このようにIT系のリスクは革新性が高く、過去の検証に基づく対策アプローチだけでは対応できない可能性が高い。

そこで本論文では、未来志向的なリスク管理アプローチとして、「逆転発想機能分析によるリスク管理手法」を提案するものである。具体的には、身の回りの設備や環境等を積極的に活用して、破壊工作者の思考で積極的に新手のリスクを発生させる方法を機能思考で創造し、その後にその結果を反転させることによって未来型リスクの予防に役立てようとする手法である。この手法の意図するところは、過去の発生の有無よりも、未来対応型でリスク対策案を検討するところに大きな特徴がある。したがって、本手法は未発生の新手のリスクに対処できる可能性が高いという点と、「リスク管理はリスクに対する認識力に依存する」という側面から「リスクに対する感受性感覚」を飛躍的に向上させる効果が期待できる。

土木事業は民間では採算の取れない社会資本を整備することが一貫した使命である。近年は、政府の財政難により様々な場面でコスト縮減が図られてきた。

コスト縮減手法としてBOT、CM、NPM、PFI、PPP、ISOなどを次から次へと土木事業関係者に取り組ませたが、本質的に効果が表われた場面は少ないと感じる。また、コストは縮減されたが品質、機能に問題が残った場面も多々ある。コストと機能を満足させるバリューエンジニアリングは上記の問題点を解決できると考えられる。

今まで国内では土木事業で整備された社会基盤が立派に日本の成長を支えてきたことは否定できない。しかし、新しい時代の社会基盤にはユーザーの要求に応えられる価値を持たせなければならない。1970年代から国内では様々な分野で価値専門家CVS(Certified Value Specialist)が価値向上を図ってきたが、その経験を活かせば十分に土木事業に新しい価値を付加できると考えられる。本論文では土木事業の特徴や課題を整理し、CVSが能力を発揮できる方法を論じ、土木事業の価値向上施策のきっかけを示す。

ここ数年、道路建設事業の業界においてもVEの流れが急速に押し寄せてきた。しかし、その目は価値の向上というよりも、直接的なコスト(道路建設費)の縮減に目が行きがちであることは否めない。もちろん、道路建設事業のエンドユーザーである国民がコスト縮減を求めていることは事実ではあるが、道路建設事業は直接的なコストだけで説明できるものではない。移動時間の短縮や環境面での改善効果など、さまざまな投資効果があることはよく知られている。

しかしながら、現状の道路建設事業におけるVEでは、コストの縮減効果に対する評価は行っているものの、本来、使用者にとって最も重要なこれらの投資効果について、適切に評価されているとは言いがたい。このため、筆者は、道路建設事業がもたらす投資効果に着目し、これらをできるだけ定量的に測定することによって、道路建設事業の投資効果を反映したVEのあり方について検討することとした。

中小企業でVEのコンサルテーションをスムースに導入するには、PRE-VE段階での課題発掘が鍵である。この「事前分析と準備」段階のVE手順は、あまり研究されていない。本研究は課題発掘と事前準備を軸としたPRE-VE段階の方法論である。その手順は、課題発掘のための願望把握、課題のコンセプトアウト、課題の精緻化、課題の実現構想、プロジェクト計画、課題を解決するための応用VE技法の選択と教育、解決に役立つ最適情報の提供およびコミュニケーションギャップを埋めるまでを六つのステップで構成している。この技法は多方面での試行錯誤を繰り返し、「PRE-VEデザイン法」として確立した。このデザイン法には、「コンセプトアウト法」「理想システム構造図」「SQ展開法」等のユニークなツールがシステム化されている。本技法は管理技法に不慣れな中小企業に適用して効果をあげており、VEの裾野を広げる方法論として活用されることを期待している。

日本の社会資本整備は、「標準多量型整備」から「個別吟味型整備」へ移ることが求められている。そのためには、「改善」という概念の導入が設計段階に必要となる。VEは、公共事業の改善に有効なツールである。しかし、その適用は、個々の業務で考えるのではなく、事業全体で考えなければ大きな効果が得られない。すなわち、バリュー・マネジメント(VM)である。

公共事業へVEを導入するためには、5つの制度と4つの環境をシステムとして整えなければならない。5つの制度とは、①人材育成のための教育制度、②効果的適用のための適用制度、③改善効果を上げるための実施制度、④品質を確保するための評価制度、⑤動機付けのための報酬制度である。また、4つの環境とは、①積極的な適用のための競争環境、②繰り返し適用するための改善環境、③外部技術者の適用のための契約方式、④旧来の制約から解放された法律体系である。

本論分では、これらの9つの制度や環境を統合し、VEシステム体系として位置付け、相互の有機的関連について新しい提案とした。さらに本提案の有効性をO県で実証した。

建築工事におけるVE検討は、設計・入札・見積・調達・施工の各段階で企業にとっての受注拡大や利益確保のために実施されている。しかしながら、時間的な制約や情報が未整備のために、大胆なアイデア発想の転換ができず、総花的なCR案の提示か仕様の変更提案に終始してしまい、顧客や設計事務所から不信感を持たれる場合が散見されている。VEが目指す抜本的な代替案の提案を生み出すためには、発想の転換が図れるアイデア発想ツールの開発が必要となってくる。

ここでは、既存ツールの問題点を克服し長所を統合した新アイデア発想ツールの作成法と新ツールの活用定着のためのシステム作りについて提案する。新ツールを試行したところ、利益率の向上が図れたことと更なるアイデア発想の切り口が報告されたことで、高い効果が期待できるアイデア発想ツールおよびシステムであると確信している。

収益性の改善を目的とする全社活動の推進部門にとって、自社製品や工事に適したVE活動テーマの具体的な選定方法の確立と目標の設定は、重大な課題である。弊社では具体的なコスト改善活動を開始する事前検討過程に、簡易的なVE展開を導入して、コスト改善戦略を策定する「シュッド・プラン アプローチ」と呼称する手法を開発し、多くの成功事例を得た。本アプローチでは、該当する製品・工事の機能に注目し、簡易的なVEの機能定義を行って大括りな機能分野(機能モジュール)に整理する。その機能モジュールに、現状の把握・分析をベースに技術面・製造面の成熟度、過去のコスト改善状況や調達実績等を勘案してコスト改善の余地を検討し、目標コスト(シュッド・コスト)の設定と改善戦術計画(シュッド・プラン)の決定を行う。これにより、全体最適を達成する戦略が策定でき、大きな成果が期待できる。

顧客が受け取る価値を高める活動としてVE活動があり、企業は顧客の要求機能を確実に達成すること、顧客の納得する価格にて供給することを両立させ、加えて利益も追求するVE活動を推進する必要がある。

ほとんどの製造業では、顧客が要求する仕様、機能、価格を作りこむために直接的に掛かる費用である直接費低減をねらいとしたVE活動を行っており、間接費低減をねらいとしたVE活動はあまり盛んではないのが現状である。もちろん、間接費低減をねらいとするVE活動が価値を向上させる有効な手段であることは認識しているものの、間接費は配賦の仕方でいかようにもなり原価として正確に把握できない、直接費を管理している製造工場は間接費の構成がよく判らない、また、直接費低減をねらいとしたVE活動のみで充分な価値向上、利益確保ができていたことなどの理由から、これらが活発化していなかったと推定する。

しかし、価値を向上させる手段としてこのVE活動も重要であることの認識から、VE協会にても各種研究が行われ、最近では「VE資料 No91 管理・間接業務のVE」などの発行に至っている。しかし、これらは間接作業の時間短縮や外注作業の効率化の手法研究が多く、作業以外の間接費低減をねらいにしたものは少ない。このため、間接費低減をねらいとしたVEアイデア発想法を考案、各種シートと共に論文とした。