論文発行年度: 2001年 VE研究論文集 Vol.32

企業と市場を結ぶ生命線は製品である。しかし、高度化した市場において競争力、収益力、新市場開拓力を持った製品を創出することは生やさしいことではない。ここに技術を基軸にVE展開とその戦略要素を掘り起こし、新しいVE展開とその運用を提示する。

FTM(機能・技術マップ)は、市場動向に対応する製品の機能を定義し、その機能の達成と制約条件を克服するため、技術的アプローチを展開するものである。このFTMの検討結果をVEの展開と組み合わせることで、VEを戦略的に展開でき、かつ価値の高い代替案が得られるようになる。

当社製品の核磁気共鳴装置(NMR)のプローブの改善にこのVEの展開方法を実施した結果、性能約50%向上、コスト20%削減の成果を得て、製品の競争力を大きく高めることができた。

本論文は、1997年より国内で実施してきた橋梁予備設計VEの10回の事例から導いた手法についてまとめたものである。特にワークショップの実施手順に関する理想的なパターンを研究することが主目的である。

橋梁予備設計VEの手順は、機能定義、機能評価、代替案作成を基本に22のステップに分解し、実施してきたが、そのうち特に情報収集、情報整理分析、要素分解、アイデアの具体化、技術検証、提案等について具体的な実施手法の詳細提案を行った。

本研究の目的は成熟期の製品で実用機能が重視される製品を対象にし、各メーカーの製品の特性とマーケットシェアとの関係を分析的に明らかにし、顧客により好まれる製品を開発設計するための有益な情報を提供することである。この事例として小型トラック(最大積載量1t以上4t未満)を取り上げ、マーケットシェアの高い製品の特性と低い製品の特性を分析的に明らかにし、マーケットシェアの差の要因を究明し、それを新製品の開発に活用させようとするものである。そのため、小型トラックの製品カタログから得られる仕様等や顧客に対する実態調査による機能特性等の評価の情報に基づく分析を行った。

製品開発活動は企業経営の要であり、常に顧客満足の高い製品をタイミングよく市場に提供していかなければならない。そのためには特に価値向上が望める製品企画案を立案する合理的アプローチが必要になってくる。そこで本論文ではマーケティング的思考が比較的強い従来の企画・開発VEに対して、最近注目されている「TRIZ(トゥリーズと呼称:旧ソ連で誕生した過去の特許データ分析から帰納的に導いた創造原理等をベースにした一連の革新的問題解決の方法論)」を活用した「新タイプの企画・開発VE」を提案することにする。

なお、本論文で提案する企画・開発VEの最大の特徴は、次世代製品の企画シナリオをTRIZの1手法である「技術進化のパターン(技術システムに関する複数の進化パターンで構成)」を活用して作成する点にある。さらに製品コンセプトを検討する創造段階においても、従来のBS法)ブレイン・ストーミング法)に加えて「コンテンポラリーTRIZ(TRIZソフトウエア)」を活用し、創造プロセスの合理化を目指している点も大きな特徴である。

VEでは、5原則の1つ「機能本位の原則」に従い、機能を発想起点にすることで、大きな変革に繋がるアイデア発想が可能だとしている。しかし、企業において、製品の機能やその達成手段は長年にわたり研究され現在の方式や方法が採用されている。また、現在、スピード開発が求められている。通常の製品開発期間においてすべてに対し、機能に立ち返った研究を行うことは困難となっている。特に、上位の機能は変更の困難性が高く、製品開発日程上、アイデア発想の起点としにくい状況である。

また、設計図や試作機などがなく、設計者の頭脳内部の構想しかない製品構想初期段階や、クリーンルームを必要とする小ロット大型産業機械など、現物を目の前に置き、その機能からアイデアを発想することができないようなケースにおいても、機能だけを発想起点とする事は困難になりつつある。本研究は、このような困難に対し、事前に「言い訳(Excuse)」と「質問(Question)」を準備し、問題点や改善点を明確化し新たな発想起点を提案する事で、アイデア発想を活性化することに役立てようとするものである。

本研究は数多くある競合製品の主要な機能を対象にし、その標準的売価の設定に不可欠な予測売価の合理的な算出法を提案し、その有用性を明らかにするものである。

本研究では、標準的売価は予測売価に戦略的要素を加味して決定されると考え、この予測売価の合理的、かつ、実践的な新しい算出法を提案する。その骨子は次のようである。

本研究は潜在顧客を対象とし、特定の製品機能の評価額をある幅をもった金額帯で評価してもらい、この評価額を平均値(加重平均)、最頻値(モード)、中央値(メジアン)の3つの統計量でとらえ、これに数学的分析を加えることによって機能評価額の3つのタイプの代表値を算出し、それら3つの機能評価額の代表値の特性を生かして、潜在顧客の当該機能に対する評価額に基づく予測売価を戦略的に算出する方法を提案するものである。

当社が約25年ほど前に先行同業他社に学びながら、1st Look VEの実施を試みてVEを導入し、所期の目標をクリアーした普及期を経て、日常業務にVE活動を移行したところ、活動が潜在化・マンネリ化し、更に景気の影響を受けて混乱してしまった要因の分析をおこなった。その打開のため、VEリーダー養成講座を切り口とした、VE基盤再整備と再構築のためのアプローチ方法を提案するとともに、建設業における具体策を明示する。

その内容は、A.事前準備としては①VEリーダー養成方針の確立②部署窓口の確立③部署状況・方針の確認④重点活動テーマの抽出 B.改善・強化としては⑤VEリーダー養成講座実施方法の改善⑥ VEr.(バリュー・エンジニア)のためのスキルアップ研修の実施⑦情報周知活動の強化 など多岐に亘る。これらは、いたって一般的な事項ではあるが、ボトムアップ的な活動を展開していくためには、活動内容にも種々のアイデアが必要となり、それに応える人材とそのネットワークづくりが重要であることを示唆する。

建物を建設する場合、設計・施工の技術基準となるのが昭和25年に制定された法律第201号の建築基準法であり、戦後50年間続いてきた。この建築基準法は「仕様規定型」のため、建設にVEを適用する場合に大きな制約条件となっていたが、今回、基準法の一部が規制の目的や技術水準のみを規定した「性能規定型」に改正(2000年6月に施行)されたためVE効果が期待されている。(以下改正基準法と呼ぶ)

本論文では改正基準法すなわち「性能規定化に伴う建設VEの取り組み方」について考察を行った。その結果、①顧客の要求性能とコストを鑑みた、後述するグレードテーブルの活用と、②発注者、設計者、施工者の三位一体の建設VEを展開することで、顧客満足度を今まで以上に実現することが可能になると思われる。