論文発行年度: 1995年 VE研究論文集 Vol.26

建設生産の発注から施工、引渡しまでのプロセスは日本独特のもので、外国のシステムとはかけ離れたものである。海外建設業の市場参入、閉鎖社会でおきた談合問題の批判に伴う入札方法の改革など、建設業界全体が激烈なコスト競争の嵐に巻き込まれている。

どのような状況下でも、顧客の満足する価値すなわち作品を提供することは建設業者の責務である。これからは、企業内VEに取り組むだけでなく、顧客と一体になったVEを指向することで、国際競争力に耐えうる建設業へと変わって行かなければならない。建設流通システムの簡素化、建段施工の省力化(無人化)、海外の安くて良質な資材の輸入、ならびに建設生産プロセスの改善などの提案を通して、日本の建設業のかかえる問題点の解消の一助としたい。

建築産業において、特に建築施工部門では従来から建築生産が一品受注生産であるがゆえまた、施工部門がプロジェクトの業務を引継いだ時点では、生産対象(建築物)の設計図・仕様書・原価がほぼ確定しているため、生産対象の各部分・各部位を個別に取り上げ、改善案を作成し、通常業務と密着した日常的なVE活動を行ってきた。しかし、建築生産は各部位の集合体であり各部位の機能が生産過程においてまた、生産結果として相互に作用し、機能するものであるので個々の改善ではその効果・成果を十分に上げられず限定されたものとなってしまう。そこで、生産対象物をあらゆる角度から検討し、「繰り返しVE」も含め各部位の改善・VE手法を整理し組み合わせ、総合的なVEを確立する必要がある。

本稿では、実際に一つの生産物(建築物)を対象に施工部門が行った活動をとおして、大規模工事における総合的なVEのすすめ方を提案する。

再開発工事等の大型建設プロジェクトでは、地域住民・出資者から構成される施主(再開発組合等)からの将来の環境,景観,建設のコスト,工期,建物のグレード,品質等々のニーズに対して、設計者,施工者からの提案が要求される。

これらの諸要素を総合的にまとめつつ生産設計をおこない、工事を進めるには、解決しなければならない問題点が非常に多く、かつ処理する時間が少ないのが常である。

とりわけ、生産設計を早期に完成するためには、設計と施工の責任範囲を分割すべきでなく、設計部門が基本・実施設計作成する作業の中へ施工部門が参画し、多岐にわたる問題点の同時解決進行作業が必要である。

一方、このような大型プロジェクトにおいては、従来の3時間VEによる作業所VE活動では対応できないものも多くある。

本稿は具体的建築物件において、生産設計を進める中で各種問題点をトータルVEプログラムに基づき解決し、見通しを得たので提案するものである。

社会環境の変化に伴い、各企業においてはVE思考に基づいた経営戦略、商品戦略が従来にも増して求められている。一方では、そのような企業ニーズに対応して開発された商品を価値評価する際に、従来のV=F/Cという概念式だけでは、正確な評価が難しいという現実もある。

そこで我々は商品開発段階で、より実態に近い価値評価が可能な概念式を作り上げる事を模索してきた。一昨年の全国大会では、PART-Ⅰ(その①)として社会価値要素とライフサイクルコストの概念を盛り込み、そして今回はPART-Ⅱとして、貴重価値要素を盛り込んだ概念式を提唱している。この結果、現在の商品が保有している各価値要素を網羅した評価が可能になったと考える。又、検証の意味も含めて我々の提唱した概念式を用いた評価も併せて実施している。

VEの「機能評価」では「機能」が果たす値打ちを、コスト換算(仮に「C」)して、おなじ機能をもつ代替のものや、こと、あるいは理論値で評価(「F」)し、判断材料にする。現状を、改善、改良、組織なら改革する目的で、活動しているにもかかわらず、価値を検討する段階では、例えば、手続きやサービスが対象なら、評価値を強制的に低い数値で割つけ、力を入れたい分野は配分を増やす。また、製品や、製造など、ハードのVE対象でも、付加価値を上げたり、ある分野の機能をアップしたいときには、その機能分野のコスト配分を増やす。その結果、F/Cが1より大きくなったり、(C-F)がマイナスとなって、現状の方が改善後より価値があるという、当初の思いと離れたことを容認してきた。本論文は、果たすべき成果を先取りして、算定式に用いれば、このテーマに解決がつくことを指摘し、その具体的な方法について提案する。

近年、問題解決のためのシステム化指向が高まっており、情報の概念化と標準化がより一層、求められるようになってきた。

本論文で提起する『入出力形態法』とは、問題解決に際しての情報の流れを、簡明な入出力の形態、すなわち入力部、処理部、出力部の三区分に体系化することにより、早く的確に解決法を見い出そうとするものである。意図的に構成フォーマットを同じにし、多くの人が手軽に、かつ一定レベルの情報を確保する狙いもある。これは一種の情報整理手法とも言えるが、考え方の整理ができること自体、システム指向の表れでもあり、VE活動に不可欠な価値創造の展開に多少なりとも寄与するのではなかろうか。

『入出力形態法』は、企画提案の分析やソフト開発の概念化構想などに有効であると考える。

現在、企画,構想から設計までの開発初期段階のVE活動によるQ.C.D.の作り込みが重要且つ、効果的であると一般に言われている。

そして、このことは実際の開発業務におけるVE活動で、数多くの実績を残していることからも証明されている。

また、生産部門のフロントローディング化により、開発部門と生産部門の連携によるサイマルテニアス・エンジニアリング活動がクローズアップされている。しかし、現状では、この活動における開発、生産両部門で共有できる管理技術は確立されていない。

一方、VE活動は使用者機能の追求を目標とした管理技術としては成熟しているが、その反面、生産性については必ずしも十分な評価方法や判断基準が確立されているとは言えない。

本論文では、VE活動における生産性評価を補強する手段として、DFMA手法をVEのステップに導入する方法を提案するものであり、同時に、この新ジョブ・プランを導入したVEを開発、生産両部門で共有できる管理技術とすることを意図した。

ソフトVEの機能定義方法について、簡易で、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)への拡張性のある方法を提案する。それは、業務規定から、目的・手段の機能をセットで抽出するという方法である。この方法によれば、機能分野の判定が容易、かつ、機能の定義も、制定の目的の項から簡単に抽出できる。規定には、品質マニュアルで示すべき、標準と、その具体的作業手順や記録のとりかたが、示されている。従って、この機能系統図を品質作り込みフローの段階毎のアウトプットについて作成すれば、品質マニュアルを基礎とした標準化が実現できることになる。さらに、各機能の手段の妥当性・価値を検討し、VEを進めれば、手段の合理化、すなわち、BPRが、可能となる。

半導体に使われる加工用材料のコストを算出し評価しようとする場合(通常ウェーハ当たりで求める)、生産工程が数百ステップもある同一生産ラインでも非常に多種の製品を作っているので原価計算が複雑であった。更に生産ラインが多拠点に分かれている場合、同一製品と言えどもライン間のバラツキによる"ロス"の発生が生じる。

本稿の狙いは、同一製品で、加工用材料コストの評価をする場合に、加工の大きな単位である"マスク・パターン加工層数"の回数(n)でノーマライズしたものを「工程機能」とし、これと、加工用材料コストを相対比較する手法を検討、評価を行った結果、"つくり方の差"、"ラインの差"によるバラツキの顕在化が出来たので、その手法について述べる。