論文発行年度: 1993年 VE研究論文集 Vol.24

VEの適用を歴史的に見ると、購買部門の価値の高い部品の調達に始まり、価値の高い製品やサービスの開発や構想へと進展し、昨今ではバリューマネージメントと発展し、経営改善へVEを適用することで大きな成果をあげるに至った。

本論文では、VEが経営という立場から改善・合理化分野を俯瞰することにより、広範な対象領域から、経営戦略に基づく多くのVEテーマを抽出する方法の研究とその推進方法としての企画部門から~事業所に至る関連部門の有機的な結合と継続的なVE推進法を研究することにより、多くの成果を納めたので論文として取纏めたものである。

その研究の要点は、①経営方針・経営戦略と事業所の経営事態のギャップ分析による経営合理化ニーズの把握、②シナリオ法応用による"経営の将来の姿"の具象化と分析・評価による広範なVEテーマの抽出、並びに③巾広いVEテーマの長期経営戦略にリンクし、VE関連部署間の有機的に結びつきを持った、一貫したVE活動の推進方法について、事例をふまえ提示するものである。

建設業は個別受注産業で、その都度異なる要求の建物を、その都度異なる生産場所で、厳しい自然条件に対応しながら、主として屋外で生産している。そして、それらの建築物は、施工計画によって品質・工期・安全などが保証される性格を持っている。

そのため、施工計画は、設計図書や契約書に示される発注者の要求条件と、生産場所の客観的与条件に基づいて、施工管理をする作業所の担当者と、企業の専門スタッフが英知を結集して、チームデザインをすべきものだと言われている。

この施工計画は、設定条件が変化すると計画も変わり、又、設計意図と敷地条件の相互の関連に施工計画の条件を合わせ、全体計画を想定して計画しないと、計画を実施する施工管理の段階で、大幅な変更が発生するものである。更に、建物を作る施工精度も、この施工計画の内容の精確さで決まる要素を持っている。これらの問題を解決するため、施工計画を立案する、施工計画の立案に関するVE手法を考案した。その手法を以下に提示する。

業務用機器のライフサイクルが短くなる中、目標の品質・コストを短期間で効率よく、達成することが望まれ、企業浮沈のカギを握っている。

機器開発における問題点は、設計者の主観的なところで進められているところが多く、結果としてコスト目標は達成できず、またトラブルも多い。

そこで、システム設計をVE手法で、システムの最適化を信頼性向上アプローチで行い、設計意図を忠実に機能・機構に反映することにより、目標のQ・C・Dを達成する方法を考えたい。

顧客が仕様を決めてくれ,それに合うものを作ればよい時代から,顧客が世界のどこからでも良いものを選ぶ時代になり,「どう作るか」より「何を作るか」,すなわち商品企画の段階が重要になってきている。

本論文はVAをとりまく商品企画と検証に最重点をおいた「売れてトラブルのない商品づくり」の仕組みの構築をめざしたものである。

「売れる商品」は生産財の場合は顧客の儲けが大きいことから,「顧客の利益V=顧客の収益F/顧客の出費C」として価値分析することにより,定量的にセールスポイントを抽出することを可能にした。又トラブルは変えたり,変ったところからおこり,70%以上が検証不足が原因であり,品質分析表(品質機能展開)により,洩れのない検証を実現した。

発想法には種々のものがあるが、VEジョブプランにうまくフィットするものが比較的少ない。この論文では、既存の発想法を、VEのジョブプランに適合させるため、発想の原理と共に、大脳生理学や、社会心理学上の考察を加え、考案した「3分間発想法」を紹介する。

「3分間発想法」には、「発想の間口を絞る」「発想中は発言禁止」「発想後はアイデア自慢を行う」等の10原則を設け、実施に当たっての規範とした。

また実施の結果多数の現実的アイデアが得られ、多数の特許出願等、多くの成果を得ることができた。

当社がVEを導入して以来、その活動の中心となってきたのは工事部門のVE活動である。本論文では、その中で、建築作業所におけるVE活動を3段階に分類し、各々の段階ごとの分析を行い、VE活動の拡大を目的とする「量の拡大」と、内容の充実を追求する「質の向上」との両面から効率的なVE活動を推進していくための方策を探ろうとするものである。

わが国の主要企業において、VE活動の「アイデアの具体化」のステップにおけるコスト見積の実態は、正常な(現有設備等による従来の延長線上)コスト・レベルで行われているのが約70%であり、理想的な(実現可能な最経済的)コスト・レベルで行われているのが約10%程度となっている。

ところが、正常なコスト・レベルと理想的なコスト・レベルの差は、製造技術の進歩が著しい現在、小さくない。

従って、VE活動の目的である「機能を果たす多数の手段の中から、最も合理的・経済的な手段を選び出す」ためには、改善案検討時のコスト見積は最経済的製造手段を追求した、実現可能な理想的なコスト・レベルで行う必要がある。

本論文では、「アイデアの具体化」のステップで、最経済的な製造手段を追求したコスト見積をすることにより、次のような改善が可能であることを述べる。

1. コスト見積が適切にできることから、改善案の価値改善率を高めることができる。

2. 特に外作品につき、改善案作成時に、算定したコスト見積値を目標にした、取引先との共同VE等により、外作品の価値改善が促進できる。

企業の経営環境の変化が激しい今日においては、極端な社員の流入、流出が有り得る。企業内でVAを導入し、それを展開して、適用分野の拡大を図り、その企業独自のVA管理システムが一時期完成したとしても、これのメンテナンスを怠ると短期間にVAポテンシャルのレベルを引き下げてしまう場合が多く見られる。VAのポテンシャルを維持、向上させていくためには、導入期と変わらないほどの、ときにはそれ以上のVA普及の工夫と努力が必要である。

VA活動の推進管理方法として、従来、節約額などの目に見える成果を推進管理の指標として管理してきたが、それ以外に、企業内のVA推進部門は常に組織のVAポテンシャルに視点を置いて実態を把握することが大切である。なぜなら、VA活動の陳腐化は、「VAポテンシャル」と「VA推進管理目標」とが整合していないことが原因で起こることが多いからである。そこで、VAポテンシャルが毎年変化し、又同時に各個別組織でそのレベルが一様でない場合において、この二つの要素の不整合によるVA活動の陳腐化を最小限にするために有効なVA推進管理目標の設定方法を提示する。

尚、本論文でいうVAポテンシャルとは、組織全体のVA活動の潜在能力をさす。

本論文は、従来のVE概念を発展させ、V=F/Cの概念式にあってFの今日的思考Cの真のライフサイクルコストの捕え方をベースに、新時代に対処できるような新しいVE概念について考え、それに基づいたモデル式を提唱し、ワンサンプルによるモデル式の検証を行ったものである。

一言で述べると価値概念の総合化を狙ったものであるが、Fの従前の使用価値概念から、商品やサービスを提供する企業や、それらのライフサイクルの間に発生する多くの価値、廃棄に至るまでの社会に与える価値に発展させたものである。

具体的には省資源的要素に時間関数を考慮する事により商品ライフサイクル間(発売~廃却)での価値変化を面積で評価するものである。

更に、資源の再利用の時代を控え、廃却時にリサイクル率を評価する事により総合価値評価に近づけると同時に、廃棄していた資源の再利用による新たな価値の発生、価値変化に連続性を持たせ再利用段階に於ける価値評価への期待を残している。

このモデル式を適用する事により生産側での総合的な商品評価が可能になり、前段の社会ニーズに適合した商品を開発する際のツールの一助となり、更に言えばVEのより広範囲な適用へ繋がる可能性を秘めた概念であると考える。

今日、企業を取り巻く環境は、かつてないほどきびしい状況にある。その中で、各企業はリストラクチャーを盛んに行い、現状打破の課題解決をはかろうとしている。しかしながら、現状分析から入るアプローチでは、どうしても現状の延長線上の改善にしかならない。そこで、願望の実現こそ大切であるとの認識から、願望把握より入るアプローチが必要と考えた。

そこで、本論文では、VEの良さである機能的見方からの斬新な課題解決法を生かし、さらに上流の目的(広義の機能)から展開することで現状打破をはかろうとするものである。具体的には、従来のVE基本ジョブプランの前に方針把握ステップ(願望把握、目的把握、価値観創出、価値把握)を入れることにより、現状のレベルと比較し、飛躍的に改革された新しいレベルを創造するアプローチを確立した。

VEの有効性が社会的に認知され、建設工事においては請負契約にVE条項を折り込む動きが見えはじめた。本論文では、民間の建設工事契約にVE条項を適用するにあたってのポイントを抽出し、変更提案の際のトラブル等を防止してVE条項を効果的に活用するための検討を加えた。

VE条項の民間工事への適用に際しては、受注者は発注者から信頼を得ることを基本に考えて、VEへの理解、契約条項への理解を得るとともに、発注者のニーズを正確に把握してVE提案することが必要である。

コンピュータ・ソフト分野への、VA適用が盛んになるにつれ、ソフトウェア技術者からは、その手法のさらなる改善要求が、熱心に提起されるようになった。要求は多岐にわたるが、結論は、より納得性の高い手法への期待である。考え方がより合理的で、作業により困惑の生じない手法への期待といい換えることができる。

これに応えるために、ソフトウェア技術者の協力のもとにプロジェクトを編成し、研究を重ねた結果、一定の成果が得られた。

一つは、合理性という面では最大のネックとされている、機能評価の進め方に、合理的手法が開発できたこと。もう一つは、困惑回避の面から、作業の容易性の高いジョブ・プランの進め方が、開発できたことである。

内容は、あくまでも、当社手法の改善であるが、コンピュータ・ソフトVA手法の一つの考え方には違いないので、一石を投ずることにした。

なお、研究過程でのソフトウェア技術者の協力に敬意を表し、合理性と容易性をまとめて、実務性という用語を使うこととする。