論文発行年度: 1981年 VE研究論文集 Vol.12

多くの企業がVEを企業の最重点施策として,多大の成果をあげていることは,周知の事実である。しかし,その内容をみると,製品を対象としたものがほとんどで,サービスいわゆるソフトウェアを対象としたものは,大きな成果を生み出すに至っていない。製品対象のVEも,実施段階で製品・部品の標準化と品質保証を確実に行わないと,間接経費はかえって増加し,トータルコストでは採算にのらない場合が生じてくる。

かかる背景より,ここ数年来,ソフトVEの重要性が注目され,多くの企業が力を入れてきているが,まだ実践的に使える手法が確立されていないのが,実状であろう。

製品VEが物を対象とした機能分析とすれば,ソフトVEは,究極的に人を対象とした機能分析となるので,ソフトVEの場合,基本的に,テーマの内容や性格,さらには個々の企業のニーズによって,アプローチのやり方やステップのすすめ方を,むしろ変えるべきであり,また,いろいろのやり方があってしかるべきと考える。

この実践ソフトVEは,いろいろ考え得るソフトVEのうちで,「誰にでも取り組み易い,実践に役立つソフトVE手法」のーつとしての展開を試みた。

本論文は,1977年,当社が本大会で「小集団活動を推進するためのVE手法」として発表した「問題反転VE」の論理を起点としている。「問題反転VE」は,その後,実用的ということを理由に,各社で大いに活用されているが,私自身,特に管理・間接部門において,社内外100回にわたる実践テーマによるWSS,TEPに適用した結果,大きな成果をおさめている。

本論文は,実践より得た体験をもとに,その思考展開を理論的に裏づけると共に,各ステップの留意点を整理したものである。実際の指導は,40枚程度のOHPによる視覚教育で行い,専らVEの体得に重点を置いているが,本論文は,VE rとして具体問題を解決する場合,少なくとも,これだけは心得ておくと得策であろうということを意図し,前半をソフトVEを進めるための理論的背景,後半をこれを実践するための実務的な留意点という形でとりまとめた。

需要低迷の続くなかで人件費,原材料が上昇しており,企業経営は一段と苦しくなっている。このため,各社とも低成長時代を生き抜くために,コストダウン対策に本腰を入れているのは,周知のところである。VEの適用範囲もハードウェアのセカンドルックVEから,ファーストルックVE,さらには0ルックVEへと拡大され,ソフトウェアについても,ムダな経費の節約だけではなく,歩留りの向上,省力化,特に最近では省エネルギー,省資源対策と,幅広い活動が全社運動として進められている。

当社の場合も,48年秋の石油危機以来,いろいろの対策を実施してきたが,ハードウェアを中心としたVE入門研修会の概要については,すでにVE研究論文集Vol.9にて報告しているので省略することにし,本稿においては,その後の活動のうち,特にソフトウェアVEによる「改善活動のVE」に的を絞って述べてみたい。

VEの技法は,製品VEの基本ステップの応用展開により,製造の領域とか物流の領域への通用等,歴史的な発展の過程を経て,今日多くの対象領域へと拡大され,大きな成果を生みだしている。

本論文は,これらの応用展開の1つである製造VEをとりあげ,その中でも,VEの基本ステップの応用が難しいとされている機能定義に焦点をあて,その具体的方法を,実践レベルで提示するものである。

製造VEにおける機能定義の難しい点は,1. 製造機能をどのように表現するか(機能定義用語),2. 人およびその手段となる構成要素をどの程度まで細かく定義するか(機能定義の対象レベル),3. 機能を評価し,改善の方向性を把握するために,定義された機能をどのように整理するか,(機能系統図の作成)の3つにある。

はじめの1つは,主として改善のためのアイデア発想を容易にする表現が重要な要素となる。あとの2つは,VE対象の生産形態およびその特質によって異なるものであり,たとえば量産品の製造ライン,単品受注品の組立工場,装置産業的製造ライン等によって,それぞれに適するアプローチの方法を選択,決定しなければならない。以下,これらについて述べる。

製品のライフサイクルにおけるVAの適用時期については,開発設計段階の,いわゆる「上流段階のVA」が重要であり,その効果も大きいことは論をまたないであろう。

この論文では,成熟期にある量産製品「事務用,産業用,電子機器,家電製品等」の新製品開発にあたって,目標製造原価のルール化した設定法について,一つの試みを述べる。

VA活動を行うに際して,VAによる目標額は,明確に,かつ,VAプロジェクトメンバーを説得できるものであるという必要があり,同時に,この目標は,顧客の要求を満足させるような設定でなければならない。

この論文では,従来開発製品の目標製造原価設定にあたって,経験とカンに依存していた度合を,若干でも少なくするため,市場における同業他社製品を機能的に分析,総合,評価をし,価値指数(V=F/C)の動向からみた製造原価の設定方法を,筆者の実際の活動経験を基に,体系化を試みたものである。なお記述にあたっては,目的の手順をわかりやすくするため,Job Plan形式を用いた。本文が,VA活動の目標設定に際し,多少とも参考になれば幸いである。

近年,製品のライフサイクルは,短くなる傾向にあり,新製品,既製品のモデルチェンジを行う期間を短期間に実施することが,激烈なる市場競争に,勝ち残る条件となってきた。

VA活動を,新製品の開発,既製品のモデルチェンジを実施する時期に効率的に運用するため,アイデア比較評価法を適用,効果をあげた。

アイデア比較評価法の特徴は,要求機能,制約条件に対応するアイデア発想と,アイデア発想から具体化されたモデルに対し,要求機能,制約条件毎にアイデアを評価することにより,VA活動期間を短縮,効率運用をはかっていることである。

以下,アイデア比較評価の内容について述べる。

70年代は物質的充実時代であった。80年代は精神的充実の時代であるといわれている。消費者が60年代・70年代を通じて,追い求めてきたのは,商品の使用機能が主対象であった。これからの80年代は,必需品を中心とした実用的商品群と,生活を楽しみ,豊かにする一連の商品群との二極分化の時代である。後者にあっては,従来の使用機能を中心としたコンセプト作りだけでは,顧客の要求を満足させる事が困難になりつつあると思われる。

また,最近の商品のライフサイクルの短縮化傾向は著しく,特に,生活を楽しみ豊かにするといった商品分野においては,顕著であり,原価構成上の開発コストの比率は,増大の傾向にある。

従って,商品企画段階におけるコンセプトの適否が,市場占有率の増加と収益の向上を大きく左右することになる。

当事業部の主力製品であるヘッドホンにおいては,基本的な使用機を達成する技術的なレベルは,既に高度な領域に達しており,この面での技術向上の抜本的な期待度は低い。むしろ貴重機能や付加機能の適否が,販売高に大きく影響を与えており,コストに占める貴重機能コストの比率は,年々増加している。近年,アウトドア使用の製品が出現して以降,市場は一変して,一段と企業間競争は激化し,新製品の開発ラッシュとなり,製品のライフサイクルは著しく短かくなっている。

このような背景にあって,商品企画段階におけるVE適用(0 Look VE)の確立を目指し,検討,実践した内容について,以降,述べる。

建設業のVEは,繰り返し効果があまり期待できない。1件1件が,施主,近隣,環境,土質など,種々の制約条件により,新規のVEを実践すると考えて良い。そこで,ベストよりベターの改善案を求め,短時間で数多くのVEを作業所で実施し,建設業固有のVE活動を展開してきている。

しかし,毎年,大量のVE実施例が報告され,蓄積されるにいたって,その事例を,いかに有効活用していくかが重要課題となってきた。もちろん,従来から内容の優秀な物件については,VEニュース(VEスポット)として全社員に配布している。

ここに,現在までのVE実施例の活用法と,その問題点について検討を加え,それらの問題を解決すベく,新たな情報システムの確立をはかった。

なお,現在までに作業所VEとして実施され,報告書の形で蓄積されている件数は,建築,土木,設備を含めて,10,000件にも及んでいる。

建設各社が,いろいろな管理技法を導入して,経営の効率化をはかる動きは,近年とくに目立つ傾向にある。

「労働集約」,「一品受注生産」,「重層下請」といった特質をもつ建設業界にも,各社なりに工夫を凝らして管理技法の導入,展開が行われて,最近の競争激化への対応がなされている。

わが社は,建設業界では,はじめてVEを導入して,12年以上経過した。その間の社内蓄積にもとづき,この報告文は,建設工事における効率的なVEアプローチについての考察を行い,問題解決への実務手法としての展開を試みたものである。

当社にVEが導入されて以来,約13年を導入期,普及期,展開期,発展期,結実期と分けて振り返ってみると,そのいずれもが,まさに"草の根運動"の連続であった。

その成果や活動の状況については,今までの大会でも多数発表したところであり,それらを含めて,これまでの経過を,概略年表式に一覧化すると,表-1のとおりである。この小論は,これらの経験を通じて,今後の一層の発展を期してまとめたものであり,建設工事におけるVE活動の問題点,建設工事の中のVEの位置づけ,そしてそれらVE活動を踏まえた今後の方向に対する提案について述べるものである。

当社でVEを導入して13年になる。現在,設計積算はもとより,事務部門においてもVE活動を行っている。しかし総合建設業(ゼネコン)である当社にとって,VE活動の核となり,また初期より一貫して取り組み発展させてきたのは"作業所VE"である。建築工事の一角を担うわれわれ設備部門においても,昭和40年後期よりVEを本格的に導入している。当初は,VEの浸透を主眼とし建築部門同様に,施工上の諸問題を解決する技法として導入をはかっていた。その後,ゼネコンにおける設備工事管理の場合の特殊性から,施工上すなわち生産面でのVEの活用に加えて,建物をシステム集約の製品としてとらえた場合の,製品面に対するVE導入が重要性をおび,その結果業務遂行過程で発生する諸問題を,効率良く解決する技法としてのVEが定着し,現在に至っている。製品面に対するVEの導入が,ゼネコンの設備工事管理にどのような効果を発揮するか,その意義と成果の一端をここに発表する。

当工場はモートル,可変速ドライブモートル,換気扇,送風機,圧縮機,ポンプ,給水装置,産業用ロボット,プログラマブルコントロールシステム,制御装置,制御システム等を生産している。これらの製品は,それぞれ顧客のニーズに対応して各種の容量のものが作られており,何らかのシリーズ品として捕えることができる。

これらの製品は,それぞれ,顧客は市場値(プライス:Price)で購入し,製造側では,それを作り上げるのに原価(コスト:Cost)が発生している。このプライスとコストの差が製造側の収益となり,企業は収益を確保するため余分なコストの発生を防止しなければならない。

一方,市場においてはエレクニロニクス等の技術革新が激しく,製品のライフサイクルも,従来は5年~10年であったものが,最近では2年~3年と短かくなってきており,顧客は,常に最新技術を駆使したコストパフォーマンスの高い製品を求めている。このようなエレクトロニクスの市場は,技術の進歩も著しく品質,仕様,機能等を含めて製造者間の競争が激しい。したがって製造側は,常に最新技術で顧客の要求機能を達成すると同時に,それらの技術を,更に発展させることによるコスト低減競争が極めて激しくなっている。

このような環境で,従来のVAの価値の捕え方である V=F/C での機能(F)とコスト(C)に代って,プライスとコストで価値を評価する方法を考えることができる。本来,機能を評価する際,機能は値打ちとして捕えられてきた。部分としての機能は,代替機能としての値打ちが機能評価値となる。しかし,製品全体としては,プライスそのものを顧客の指定する値打ち,機能評価値と考えるべきである。すなわち V=F/C をV=Price/Cost と置き換えて価値を評価することができる。これによって企業収益に直結した形で価値改善を考えることができる。

また,このプライスとコストの関係を,当工場の製品のようなシリーズ品全体に適用し,プライスライン,コストラインとして,グラフによって比較すれば,シリーズ品全体収益についての管理も可能となる。すなわち図-1に示すように,プライスラインとコストラインが平行になっていなければシリーズ品の構成の考え方に誤りのあることがわかる。更に,コストの内容を基本機能,補助機能に分割し,顧客の要求機能すなわち顧客が金を支払う機能と,製造側が要求機能を達成するのに必要な機能に分けて,それぞれのコストラインをプライスラインと比較すれば,どの機能分野が収益確保の阻害要因かが明白になる。

このように,収益を確保するための製品VAで,プライスとコストの関係から価値判断をすることによって,顧客のニーズに見合い,かつ収益確保に密着したVA活動の進め方を「PCチャートによるVA診断法」としてまとめたので,以下,内容を発表する。

コンピュータは,現在から次代にかけての花形製品として脚光を浴びているが,その環境条件は,技術革新の速さからくる厳しさが存在する。

性能の大幅な向上と同時に,急激な価格低落があり,そのためにコストパフォーマンスの改善スピードは大きい。

一方,コンピュータ製品の大型化と使用範囲の拡大から,その信頼性に対する期待も無限に大きくなりつつある。

つまるところ,高品質を維持しながら,如何にして原価低減をなし遂げるかという普遍的なVAテーマに到達するわけである。

最近の産業界においては,従来あまり関係がないとされていた分野にも,エレクトロニクス化の波が押し寄せてきている。メカトロニクスと呼ばれる新造語にもみられるように,エレクトロニクス化された機器は,多種多様にわたり,それとともに,使用される電子部品に要求される機能・性能・品質は,複雑多様化し,電子部品の開発のためには,高技術力が必要とされている。一方,電子部品業界内における企業間競争は,ますます激しさを増し,高技術・高品質とともに,低コストが要求されている。かかる背景から,新製品の量産開始までに,性能・品質・コストを充分検討し,問題を除去するとともに,より早く他企業に先んじて新製品を市場に送り出すことが必要であり,そのためには開発の効率化をはからねばならない。当事業部では,こうした問題を解決するために,製品設計・生産設計において充分品質・コストを検討し,かつ,開発を効率化すベく,VEとQCの融合をはかり,その推進方法のシステム化を行った。本論文は,高技術・高品質製品のVE活動を行うにあたって機能故障という考え方を導入することにより,VEとQCの融合をはかった例を紹介する。

近年の低成長経済下では,軽量経営の一環として,製品,部品,材料など在庫量を極力圧縮することが要求される。一方,市場ニーズの多様化,新分野への参入など,製品機種は増加の一途をたどり,在庫量の圧縮の妨げとなっている。この打解策として「かんばん方式」による小ロット生産などと並び,「部品の標準化活動」が非常に有効である。

しかし,一般傾向として,各製造業種とも,「標準化」の必要性は十分認識しながら,実際には顕著な推進がはかられていない。その理由としては,各企業の体質,環境にもよるが,次の要因が考えられる。

1) 製品シリーズ毎のモデルチェンジ頻度が異なり,部品の仕様格差が大きい。

多くの製品シリーズ群のうち,特に同業他社とのきびしい競合下にある製品シリーズは,モデルチェンジの頻度が激しく,より価値ある新部品が要求され,採り入れられる。一方,それ以外の製品シリーズは,とり残された形となり,同一機能部品でも仕様,コストなど著しい格差が生ずる。したがって

(a) 仕様の統合が困難で,標準化としてまとまりにくい。

(b) 標準化案を立案しても,取付寸法が異なるなど,手数がかかり,切替手配段階で敬遠される。

2) 標準化案に魅力(コスト面,仕様面)が無い。

1)で記すような条件下で,互換性を考慮し過ぎた場合,既存部品ベースでの「最大公約数的仕様」になり易く,将来構想に欠け,ややもすれば価値が低く,寿命の短かい標準化案(標準部品)となってしまう。

3) 設計者の個人差によるもの。

設計者の個人差によるものとして,

(a) 設計者の好みの差(形,デザイン,方式)が,部品仕様に反映され易い。

(b) 法規制を受ける製品については,関連法規の解釈に微妙な差異があり,部品使様に反映され易い。

(c) 信頼性,安全に対する解釈度の相違,データの不足が部品仕様に左右され易い。

(d) 顧客ニーズのとらえ方に差が生じ易い。

4) 推進体制が弱い。

委員会形式の推進体制では,ややもすると,日常業務が優先し,推進体制が散漫になり易い。

以上,標準化阻害要因について述べたが,これに対する解決策を併記してまとめると,図-1の如くとなる。

これらの阻害要因を乗り越え,一気に標準化を強行することは,特に多種類の製品を対象とした場合,障害が多く,その前段階として「何等かの調整作業」と「魅力ある標準部品」を生みだすVE技法の必要性を感じた。

この結果,対応策として考案した技法が,以下に述べる「仕様平準化技法」である。

今や,第1次,第2次オイルショック等の経済変動の時期を経過し,各企業とも,これら経済変動に起因する収益圧迫を排除する強力な武器のーつとして,VAの有用性を確認し,今後に期待するものも大きいと思われる。また,これらVA活動をサポートするVA技法についても,部品VAから製品VA,工事VA,物流VAに至るまで開発され,VA実施時点についても,現流品から開発品といった具合に多岐にわたって適用されており,VA活動が企業に欠くことのできない,管理改善手法として根をおろしたかのように思える。

しかしながら,前論文「VA活動の効率的運営について」で,VAスピードの指標について述べたように,VA活動の効率化と,実効効果の向上は,早急に解決しなければならない課題となっている。今回は,このようなVA活動に対する要求にこたえるため標準化指向の製品VAを実践して,トータルコスト低減のための「ダイナミックな標準化とVAの同期化」をはかることのできるVA手法を開発したので,そのねらいと,手順について述べてみたい。