論文発行年度: 1979年 VE研究論文集 Vol.10

低成長時代における商品戦略として,価値ある商品を短期間に開発し,市場に提供することは競争に打勝つための絶対条件である。新製品の開発は市場ニーズ,顧客要求等のマーケティングリサーチから開発方針を決定し,商品として生産されるまでには数段階のステップを通らなければならない。開発方針は商品の機能,売価,市場性,収益計画,技術的難易度,開発時期,開発予算,設備投資等の検討がベースとなって決定されているが,開発方針審議時点では,各項目に対する具体的裏付けに不安定要因が多く売価,収益計画の基本となる目標コストは企業経営,商品販売戦略からトップポリシーとして決定されるケースが多い。従って新製品開発ステップの最終段階において,計画の収益を確保するために目標コストの設定と,各ステップにおけるコスト管理を行う必要がある。

近年顧客ニーズが多様化し,市場におけるメリット競争が激化しているため,競合他社品を差別化できる高メリットの商品を,短期間に開発することは販売戦略上重要である。そのためには,開発ステップを最短のコースに設定し,重複した研究試験期間は避けなければならない。従って,開発VAをできるだけ源流に遡って実施するとともに,各ステップに応じたVAを投入することにより,目標コストを管理することが必要になってくる。

1.1 鈴鹿工場の紹介

当社は総合電機メーカーであり,鈴鹿工場は回転機部門の中核をなす工場となり,現在の従業員数は約1,500名である。

製造品目を大別すると

① 誘導電動機

② 同期発電機

③ 可変速電動機

④ 応用機器

⑤ 電源装置

⑥ 誘導炉

を生産している。

1.2 当社のVAの特長

我々製造メーカーにとって,基本的な事は「図面があるから仕事がある」のである。

部品を作るには図面が必要である。次に生産準備部門での製作方法の決定,治工具の決定,資材の発注,部品製作工程での管理,品質管理,工程管理,在庫管理等が行われる。

このように1つの部品が製作過程でたどるそれぞれの処理ポイントで,それぞれの間接費用が発生する。

製品コストの内,間接費の占めるウェイトが大きくなっており,直接費のみに着眼するVAでは,かえって間接費が増大する場合も起り得る。

従って,直接費の他に間接費も削減させる必要があり,そこに着眼するのが当社の特長である。

低成長時代を迎え,家電音響製品は,ますます市場競争が激しくなり,さらに最近の石油関連資材を中心とする,材料費の高騰は収益を悪化させつつある。一方,市場のニーズにより製品はますます多様化の一途をたどっている。

これらの傾向は開発機種の数を増加させ,収益確保のために多くの機種の製品VAが要求されるようになる。VA活動は企業の置かれた環境とニーズにそったものでなければならない。

今回,家電音響製品における開発生産形態の中での,企業のニーズに合わせた製品VAのあり方について効率的な分析形態を中心に述べてみたい。

4月になると,各社とも社長が新入社員に対し訓示を行う。入社してからの心構えが主なる内容であるが,中には企業目的,行動指針も「製品供給の義務」「人類の幸福・福祉への貢献」更に,直接的に「利潤の追求」などと示される。いずれも社内事情を反映したもので,企業経営を左右する内外部要因はあまりに多いと言えよう。

こうした状況におけるVA活動を考えてみると,各企業のおかれた状況において何をやるべきか,その活動の位置付けを明確にせねば「何んでもVA」となってVA活動自体も焦点を失い,盛り上がらないものになる。

このような観点から,製造業である当社は下記する理由によって製品・製造VA,部品VA,物流VAそれもファーストルックVA (1st look VA) に的を絞り,開発活動の中にVA活動を仕組化した。本稿ではその一端を紹介し諸兄の批判を仰ぎたい。

(1) 家電商品はユーザーの巾が広く要求が多種多様であり機能の選択が厳しい。

(2) 競合会社が多く,適正な市場価格における差別化した商品でないと売れない。

(3) 製造原価に占める直接材料費の割合が高く,構造が決定される設計段階に,衆知を集める必要がある。

(4) VA導入後の歴史が浅く,金額評価できるVAが全体のコンセンサスを得やすい。

(5) VA活動がダイレクトに企業業績に反映され,参加者のモラルアップにつながっていく。

昭和48年のオイルショック時における,石油関連資材の調達難は,当社もその例にもれなかった。特に,家電品を担当する当工場においては,量産工場であるがゆえに資材物量の確保難,及び材料価格の大巾値上り等,かなりの影響を被ったのも記憶に新しい。

更に,昨年のイランの政情不安をきっかけに生じた,OPEC(石油輸出国機構)の再々にわたる値上げ攻勢(第2次石油危機)の行きつくところは,原油価格20$/1BL以上は必須という状況下にあり,54年度を迎えて原油動向は物量,価格とも増々混迷の度を強めているといえる。

我々は,この稀少資源である石油関連資材を,いかに効率よく有効活用するかを最大テーマと考え,これにチャレンジするVA活動を「省資源VA」と名づけて展開した。

以下,具体的アプローチ内容について報告する。

VEが我が国に導入されて以来,この思考法は色々な環境の中で,企業経営における利益確保の柱として大きく成長した。この間に,VE技法そのものもより大きな成果を得るために,VE手順の改善とか,新しい分野に適用する新技法の開発等,長足の進歩を遂げてきた。

しかし,このような努力にもかかわらず,VE活動によって獲得される成果は,初期の導入段階で得られたものに比較して,次第に減少の傾向にあるのも事実である。

本論文は,特定のプロジェクトについて,数回のVE-TFP活動を繰り返して実施した結果の資料に基づき,本当に「VEは無限である」のか……を検討したものである。その結果,VE活動の成果を示すVE率は,1つの曲線の近似式によって低減することが判明した。この曲線の性質は,今後多くの事実データによって裏付けられる性質のものであるが,「VEは無限である」ことを示唆している。また,この近似式によって最初の第1回目のVE活動によるVE率から2回目以降におけるVE活動の目標額の大枠設定が可能となる。

更に,本論文はこれら一連のTFP活動の追跡調査により,この曲線の性質を究明しこれと現在活用されている各種発想技法から,VE活動の発想段階における実践上の具体的な方法をパターン化した。この方法の有効性は,多くのプロジェクトによる実践活動において証明されているので,本論文は今後のVE活動における参考の資料とするものである。

VAはもはや個人,グループの技術でなく,企業経営活動の一環として極めて重要な役割を占め,企業経営の方針に基づいた組織的な活動へと発展している。

一方,VA対象もハードからソフトへ,2nd Lookから1st Lookへと,製品の生まれる源へさかのぼる傾向にある。特に新製品の開発は経済の低成長時代にあって,企業の利益を確保する重要な柱として位置付けされている。

このような経済下で新製品の機動的開発を図るためには,開発VAのアプローチが必要である。当工場における新製品開発の実態を見ると,日常行われている開発業務と開発VAは,必ずしも効率よい運用がされているとは言えない。

今回これらの点に着眼し,開発手続業務にVA的要素を入れて改善し,新製品開発ジョブプランおよび開発VAジョブプランを確立した。