VEで発掘! 伸びる社員は改善活動の中心にいる

シャープ株式会社
経理本部 経理部 原価管理担当 副参事 CVS 谷 彰三氏/通信システム事業本部 経理部 原価管理担当 副参事 高橋康洋氏


シャープ株式会社は1962年にVEを導入し、各部門の改善活動の核となる人材として、VEリーダーを養成してきた。現在は、約680名のVEリーダーが、VEプロジェクトや改善活動を推進。海外の事業所も含めた「VE成果発表会」を毎年開催し、優れたVE活動を全社共有する取り組みでも有名。同社におけるVEリーダー養成の効果などについて、経理本部副参事・谷彰三氏、通信システム事業本部副参事・高橋康洋氏にお話を伺った。

シャープがVEを導入した経緯について教えてください。

谷氏:当社がVEを導入したのは1962年です。当時、VEのもとになったValue Analysisに関する本が出版されていて、当社の設計部門担当者が『VAの研究』などの本を読み、「これはやってみる価値があるだろう」ということで導入に踏み切りました。導入当初は、主に原価管理や購買部門での活動でしたが、70年代から全社展開を始めて、資材部がVE活動を統括する部門になりました。93年からは、原価管理統轄部門の設置を契機として、VE活動の強化を図るために、経理本部に業務移管されました。現在では、経理本部が全社のVE活動の推進にあたっています。

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現在、VEについて、社員からはどんな声が聞かれますか。

高橋氏:VE入門研修の終了後、VEについてのアンケートをとっているのですが、「VEを知って考え方の幅が広がった」という意見が多いです。VE特有の機能中心の視点で見ると、同じものを見ても見え方が違ってくるので、以前よりも考え方の幅が広がるし、考え方も変わるというのは、私の実体験からも納得できる感想です。
谷氏:若手社員からは、VEのチームワークに対して、肯定的な反応が多いです。特にソフトウェア開発をしているような若手社員は、組織にいながらも個人プレーで仕事をしている側面が強いでしょう。VE入門研修後の彼らからのアンケート回答を見ると、「チームで課題解決をしたのが楽しかった」とか、「自分が思ってもみなかったアイデアが、ほかの人達から出てきたのが面白かった」という意見がすごく多い。今の若い人達の個人主義的なところと、VEのチームデザインの発想は、対極にあるのかもしれません。そういう意味でVEは、特に若手社員に対して非常にいい刺激になっています。

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VE活動を推進する立場から見て、VEが全社的に与えている影響は感じますか。

谷氏:VEを活用することによって、お客様志向がさらに深く浸透しているように感じます。お客様志向とは、「お客様にとってそれはどういう意味があるのか」「それで本当にいいのか」と繰り返し問うていくことだと思います。物づくりには、「こういう技術的シーズで、こんな新しいものができますよ」と、技術ありきで発想してしまう罠があります。しかし、VEの「機能で見て、価値を考える」「なんのために」「誰のために」といった思考の土台があることで、「その新しいものは、お客様にとってどういう意味があるんだ」「それができたとしても、自分はほしいと思うか」と問い返しながら、お客様志向の商品開発ができているように思います。
当社の創業者は常々、「他社がまねするような商品をつくれ」と言っていました。「まねされる商品」とは、ユーザーが望む良い商品、つまり売れる商品です。常に他社がまねてくれるような商品をつくる努力をすれば、企業は成長していく。まねされることで競争を生み、技術を向上させ、ひいては、社会の発展につながっていきます。そのように考えると、当社の精神とVEとは、非常に相性がいいと考えます。

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VEリーダーの資格取得については、どのような方針で支援していますか。

谷氏:当社には全社で約680名のVEリーダーがいます。受験は強制ではなく、基本的に自発性に任せていますが、経理本部から各部門に「改善活動のリーダーとなるような人を育成してほしい」と依頼して、各部門長が適任者に受験を打診するケースが大半です。


研修面の支援としては、VEリーダーを受験する社員に「VEリーダー養成研修」を受けてもらっています。「VEリーダー養成研修」は、「VE入門研修」を受けた人が対象で、「VEリーダー試験に受かるだけのスキルを身につけよう」「受けるからには合格しよう」という主旨の研修です。期間は2日間で、1日目は、基本から勉強をし直します。勘違いや思い込みを取り去って、基礎を固めることが目的です。そして2日目の研修は、1カ月後に模擬試験のかたちで行います。その1カ月間で、1日目の研修の内容を自分なりに整理して、覚えるべきところは覚え直して、身につけたものが正しいかどうかを模擬試験で試します。そして試験結果を見て、できていなかったところを補正して、受験本番に備えます(図表1)。
(図表1)

VEリーダー資格を取得した社員に対しては、「VEリーダー・レベルアップ研修」を開いています。主な目的は、コスト分析能力とコスト改善能力をさらに磨いてもらうことです。各自に3年間にわたるスキルアップの計画を立ててもらい、その計画にしたがって、研修の内容と実際の業務実践とをリンクさせながら勉強してもらいます(図表2)。また、全社のVE活動を活性化する取り組みとしては、海外の事業所を含めてVE成果発表会を開き、優秀な事例を発表してもらうなどしています。(図表2)

受験を強制してしまうと、必ずマイナス面が出てきますので、あくまで自主性を尊重するように気をつけています。自発的にVEを学びたい、VEを仕事に活かしたいという人を発掘して、そういう人たちに勉強してもらい、資格を取ってもらう。しかし、資格を取ることが目的ではありませんから、取得後に資格を仕事の中で活かしてもらえるように、「VEリーダー・レベルアップ研修」を行っているわけです。それぞれの部門で、VE手法をきちっと理解した人が何人も出てくると、さまざまな面でプラスになります。VEは重要な管理技術の一つですから、少なくとも、物づくりに関係する部門はすべて、複数名のVEリーダーを養成していきたいと考えています。

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VEリーダーを養成することに、会社としてはどのような効果を感じていますか。

谷氏:それぞれの部門でVEリーダーが誕生していて、VEプロジェクトにかぎらず、改善活動などでも活躍しているようです。資格を取って、VEリーダーとして活躍している社員は、みんな向上心のある人です。VEの入門研修をした後で、資格制度の説明をすると、熱心に聞いている社員がいて、彼らが自発的にVEリーダー養成研修を受けて、受験して、資格を取ります。そういう熱心な社員なので、資格を取った後も、積極的に仕事の中でVEを活用しているようです。このように、自発性を尊重しながらVEリーダーを養成するならば、熱意や向上心のある社員を発掘して、活躍を後押しするような効果もあると思います。

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VEリーダー資格は、社員の間でどのように受け止められていますか。

高橋氏:若手社員は、VEリーダー資格を、「知る人ぞ知る、プロの取る資格」と見ているようです。最近では資格コレクターみたいな人がいて、「とにかくたくさんの肩書きを」という考えもあるようですが、VEリーダーは、そういったコレクション的な資格とは一線を画して、「有用な資格」として受け止められています。

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VEの資格を取るということは、どのようなメリットがあるとお考えですか。

高橋氏:VEの資格を取る中で、顧客志向が定着したと思います。VEは従来の管理一辺倒のツールではないですね。VEは、本質は何かを定義して、その本質に向かってアイデア発想をしていきます。「本質は何かを定義する」という段階で、もうすでに前よりも物の見方・考え方が広がります。そしてこのアプローチは、顧客志向そのものと言えると感じています。物づくりをする企業としては、「いいものをつくって、お客様に喜んでいただければ、自分たちの利益にもなる」と考えますが、この考えは、VEの考え方とぴたりと合っています。しかもVEを使えば、「いいものをつくって、お客様に喜んでいただいて、自社の利益もあげる」という考えを、数値に変換して、物づくりに具現していくことができます。私は原価管理担当者として企画に近いところで仕事をしていますから、そういう意味でずいぶんと、VEの顧客志向の恩恵を授かっています。
谷氏:本質を捉えようとしてみると、実際、VEの概念式どおりに機能を追求していくのがいちばんの近道です。機能を考えていくと、実現すべき本質が見えてきますから。つまり、ただ漠然と考えているよりも、機能を追求したほうが考えやすく、考えの幅が広がるし、スピードが上がるし、答えが見つかりやすくなります。どんな仕事をするうえでも、漠然と事にあたるよりも、VE的に「この仕事の機能は何なのか」と考えていくほうがやりやすいし、「このやり方のほうがいいんじゃないか」と改善策が見えてきます。私としては、物づくりに限らず、どんな仕事でもVEのメリットがあるはずだと感じています。

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これからVEリーダーを目指す人にメッセージをお願いします。

谷氏:VEに興味をお持ちのみなさんは、「VEの本当の意味を勉強し直そう」という意識で、VEリーダー資格に挑戦すればいいのではと思います。VEの研修を受けて理解したつもりでも、勉強し直してみると、考え違いをしていたところや、今まで気づいていなかったところに気づくことが多々あります。そういうプロセスを経て、VEの本当の意味が理解できてくると、俄然、面白くなること請け合いです。
VEはシステマチックに合理的な考え方をしますから、VEの本当の意味を理解するまで勉強したら、役に立つところが大いにあるはずです。VEリーダー資格に挑戦して、勉強して、マイナスになることは何もないはずですので、積極的にチャレンジしてもらいたいと思います。しかし繰り返しますが、資格を取ることが目的ではありませんので、勉強をし直して、さまざまなことが分かってくる過程で「資格ももらえる」という気持ちで、挑戦していただきたいと思います。

高橋氏:何事も基本を押さえるということは大事で、しかも今は情報が氾濫している時代です。こうした時代に生きているからこそ、基本をきちっと押さえているということは、なおさら重要であると思います。VEは、会社の仕事だけではなく、個人の生活にとっても役に立つ考え方の基本です。VEリーダー資格を取ってみようか、どうしようかと迷っているみなさんは、「自分は基本をきちっと押さえたぞ」という証拠を獲得する目的で、VEリーダー資格を捉えてみて、チャレンジしてはいかがでしょうか。

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