表現をする(4)  (ゆ)  No.285

こんにちは。公益社団法人日本バリュー・エンジニアリング協会事務局の(ゆ)です。

前回のブログで、糸と針で表現ができる刺繍のお話をしましたが、糸と編針や編み棒だけでものづくりができるのが編み物です。子供の頃は、編み物の好きな叔母がベストやカーディガン等を編んでくれましたが、私自身も帽子やセーター等を何点か編んだことがあります。結婚してからは、主人の母が、お手製の編み物をよくプレゼントしてくれました。昔、毛糸のメーカーの広告で確か『手で編むのが糸、心で編むのが愛』といった感じのコピーがあったのを覚えていますが、既製品との違いは着る人への思いがより込められていることではないかなと思います。毛糸自体の温かさに加えて、そこに込められた心の温もりも伝わってくるような気がしました。

編み物は、糸をほどいて別の物に編み変えてリサイクルもできますので、VE的にも優れているのではないかと思います。昨年から手編みニットがトレンドになっているそうですが、今年の東京オリンピックの選手の中で特に印象的だったのがイギリスのトーマス・デーリー選手(27)です。飛び込み男子・シンクロ高飛び込みで金メダルを取られたので競技の表現力はもちろんのこと、応援席で編み物をしている姿も注目されていました。新型コロナのロックダウン直後から始められたという編み物は、競技の上でも大きな精神的助けになったそうです。

確かに編み物をしていると、それだけに集中して時が経つのを忘れてしまうのですが、今思えば、一種の瞑想状態にも似たような感覚かもしれません。このブログ№268「心を整える(8)(https://www.sjve.org/22426)」にも書きましたが、まさに「マインドフルネス(心を今に置く)」の状態で競技に臨むことができたのも、編み物が一つの要因だったかもしれませんね。更に、彼はLGBTQ(性的少数者)でもあり、2017年にアメリカ人の脚本家の男性と結婚され、翌年に第1子を代理母出産。また、YouTuberとしても活躍されていて、選手村の様子を動画で紹介されていたそうです。

本日、12月10日は世界人権デー(Human Rights Day)国際デーの一つで、1948年のこの日、パリで行われた第3回国際連合総会で「世界人権宣言」が採択されたことを記念して、1950年の第5回国際連合総会において、毎年12月10日に記念行事を行うことが決議されたそうです。日本では、この日を含む直前の1週間(4日から10日まで)が「人権週間」となっているとか。「世界人権宣言」は『すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である』 で始まる全30条と前文からなっているそうです。トーマス・デーリー選手の多方面にわたる表現力やその行動は、人間の自由と平等に加え、人間の持つ可能性が有限でないことを知らしめてくれているようにも思えました。

また、東京オリンピックで、彼の「編み物」と同様に競技以外でとても印象的だったのが「ピクトグラム」でした。1964年の東京オリンピックで、日本語の分からない外国人の方のために、競技種目だけでなく「トイレ」等を表現するマークとして考案されたとか。ピクトグラムを社会に還元するため、著作権は放棄され、国内外に普及していったそうです。今回の東京五輪では50種目のピクトグラムが制作され、前回大会のデザインや思想を受け継ぐ一方で、競技内容をより分かりやすくする工夫が施されたそうです(例えば、上のバスケットボールのピクトグラムはダイナミックなダンクシュートのシーンに変わったそうです)。そして、7月23日の開会式では、この50種目を身体で表現するパントマイムアーティスト達によるパフォーマンスが行われました。次から次へと息をつく間もない速さで展開されていった立体的なピクトグラムには、メダルを差し上げたいくらいでした。

その後、このピクトグラムに影響された人達が、身近なことを表現したマークを作成して、更にSNS等で発信して人気となったそうです。今は、ある表現を見て感心するだけでなく、自らも表現を作り出し、更に瞬時で世界にも発信できてしまうのですから、凄いなあと思います。ただ、発信するならば、トーマス・デーリー選手のように、自らも、そして周りの人達をも楽しくさせるような内容のものであって欲しいと思います。

一目でそれと分かるピクトグラムの簡略的な表現には、それを見る世界中の人達の立場に立った思いが込められていますよね。ムダを省くと同時に顧客本位であることをモットーとされているVEr.の方々なら、ピクトグラムを作られるのはお手のものかもしれませんね。オリジナルな作品を表現されて発信されてみてはいかがでしょうか?

では、よい週末をお過ごしくださいませ。 (ゆ)

 

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