三菱電機株式会社
資材部 原価企画グループマネージャー 中川宣彦氏/生産技術部 技術企画グループマネージャー 江頭誠氏
1975年に導入して以降、1990年まで全社でVE活動に取り組んできた三菱電機。休眠期間を経て、2006年より原価企画活動の基盤として再びVEの全社導入を進めており、成果が表れつつあるという。VE活動を再開した狙いとVEにかける期待を、同社資材部原価企画グループマネージャー中川宣彦氏と生産技術部技術企画グループマネージャー江頭誠氏に伺った。
三菱電機がVEを導入された経緯を聞かせてください
当社のVE活動の歴史は長く、導入したのは1975年のことでした。しかし、1990年になり、VE教育は一段落した、との判断で本社のVA事務局を廃止しました。ちなみに当社ではVAという標記をしておりますが、基本的にVEと同じです。その後も、現場レベルでVE活動は続いていたものの、本社主導の活動は休眠状態でした。
VE復活のきっかけは、原価企画活動でした。1999年に、高コスト体質を改善しようと、全社的な原価企画活動をスタートしました。目標原価の達成度は、開始当初から2003年までは順調でしたが、それ以降は頭打ちの状態になりました。その理由を分析すると、技術的側面における提案力で壁にぶつかっていることが分かりました。
「技術的な提案力を伸ばす」とは、VE活動そのものといえます。そこで、原価企画活動の基本的手法としてVEを活用することが決まり、2006年にVA技術委員会を立ち上げ、現在に至ります。当社では原価企画の活動モニターを継続していますが、VEを導入してから原価企画活動の目標達成率が大きく伸びました。VEは、当社の原価企画活動と低コスト体質づくり、不況に負けない成長に貢献しているといえます。
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三菱電機のVE活動の特色は何でしょうか
当社のVEは、原価企画を起点としているため、ハードウェア(製品設計)を対象に、徹底的に技術を見直すことを重視しています。他社が取り組んでいるようなソフト(管理・間接)VEは、小集団活動でカバーしています。ハードウェアとソフトの両面で原価企画に取り組んでいくと、焦点がぶれてしまうからです。
ハードウェアを対象にVEの分析をする中で、ソフトの問題も当然出てきます。その場合は並行してソフトVEも進めていくという自然な流れで、将来的にVEがハード・ソフトの両面に広がっていけばいいと考えています。
特色としてもうひとつ挙げられるのは、機能系統図とテアダウンを結び付けていることです。本来は、機能定義が厳密にできていなければ、テアダウンもできません。
VEを再開することになってから、先進メーカーの方々に講演をお願いするなどして、他社の実践例を勉強させていただきました。そこで学んだことをヒントに、テアダウンの前段階で原価企画の考え方を導入し、どういう目的でテアダウンしていくかを整理しました。そうして、当社なりに工夫した結果が、機能系統図とテアダウンを密接に結びつけるということでした。
つまり、他社の競合商品と自社商品のコストを比較するベンチマーキングの手法と、VEの機能定義を組み合わせたのです。通常のベンチマーキングの主な要素は、製品分解と分析です。当社はそこに機能定義を加え、機能定義に基づくベンチマーキングをしています。製品分解の前に機能定義を徹底的に行い、機能単位で機能別コストを整理し、競合製品と比較するのです。このベンチマーキング手法は、当社がVEを再開し、VEの機能定義の考え方があったからこそ開発できたといえるでしょう。
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社員のVE資格の取得を奨励しているそうですが、その狙いは何ですか
当社が目指している姿は、組織のすべての層にVEL取得者がいるというものです。プロジェクトを進める社員の中にも、プロジェクトを管理する社員の中にも、そして上層部にも、VEL取得者がいる。プロジェクトメンバーが機能系統図を手に提案すると、管理者も上層部もその真意を理解し、適切に判断することができる。組織のすべての層が、VEという同じ言語、同じ価値観、同じベクトルで思考し、意志決定できるのが、当社の理想の姿です。
VE資格の取得者が組織内に増えるほど、チームデザイン力や同一ベクトルでの決断力が高まります。当社では、社員のVE資格取得のモチベーションを高めるために、VEL、VES、CVSを人事制度の中でキャリア登録しています。
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全社でVEL取得者を何名まで増やす目標ですか
2006年に立てた3カ年計画では、まずVA基礎教育の対象を各事業所の技術系の全社員と資材部の全社員としました。さらに、その中からVA実践活動の核となる人材を育成する目的で、VEL資格取得者数の目標を262名と設定していました。これは、各事業所にあるビジネスユニットごとおよび事務局に最低限必要な2名の配置を考えて決めていました。ところが、予想以上に多くの社員が積極的に資格取得を目指し、目標を大幅に超える勢いですので、現在、計画を見直ししているところです。
当社の原価企画・VA推進体制では、事業所所長の下に、原価企画・VA推進責任者としてCTOを置いています。現時点で正確な数値は未定ですが、見直し計画では、将来とも、磐石な活動基盤を形成し、トップダウン型推進とチーム活動を展開するために、CTOを含め、ビジネスユニットの代表者である部長レベル、製品毎の責任者である課長レベル、さらに開発プロジェクトのリーダーおよび参画メンバーの全員にVEL資格の取得を順次拡大したいと考えています。
これらの取組みは、当社の関連会社を含めて進めていくこととしていますし、さらにソフトVEへの取組みを考慮すると、VEL資格の取得者数は、さらに高い目標を設定したいと考えています。
VELを取得した社員が、社内でVE教育に当たっています。新入社員対象に入門講座を、その先の講座として「VA基礎」「製品開発VA」などを社内で開講していますが、これらの講座のインストラクターを、VEリーダーの社員が務めています。自分で勉強して資格を取り、VEを実際に業務で生かしている社員が講師ですから、受講する社員にとってよい刺激となっているようです。また、VEリーダーからも、「教えることがいい経験になっている」との声を聞きます。
VEL、VESを取得した社員は、VE活動の推進でも中心を担っています。また、当社では、原価企画・VA活動推進事務局と連携すべく、VA専門部会とVA技術委員会という組織があります。VA専門部会は社員が自由に出入りできる検討グループで、「こんなツールを使いたい」といった諮問をVA技術委員会へ投げかけます。VA技術委員会を構成しているのはVEL、VESの取得者です。VA技術委員会の中にはワーキンググループがあり、ツールや手法の開発、マニュアルや技術参考資料の作成、VA専門部会のオーダーへの応答などを行っており、その成果をイントラネットに公表して社内で共有しています。このVA専門部会とVA技術委員会が、当社のVEの技術基盤で、これを支えているのが社内のVE資格取得者です。
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VEを活かした御社の将来像を聞かせてください
当社社長の下村節宏は、「本来VEは、製品・サービスの開発設計段階で基本的に盛り込まれるべき技術で、どちらかというと『空気』のような存在として、必要不可欠なものだ」という趣旨のことを述べています。現場の推進者である私達も、VEに対する心構えは同じです。今後、社内のVEL取得者をさらに増やしていき、当社のすべてのプロジェクトで、VEを「空気」のような存在として定着させたいと思います。
VEL、VESの資格を取得した社員には、どんどんVEを活用してもらいます。実際にVEを活用すると、物の見方・考え方が新しくなるのが実感でき、創造の喜びが感じられます。それは、一度経験するとやめられない喜びです。
VEを通じて社員が創造の喜びを味わい、それを他の社員に伝え、互いにサポートするという輪が広がっていくことを願っています。社員のそうした喜びの輪が、ひいては当社の企業価値を高めることになるでしょう。すべてのプロジェクトでVE活動が進められるならば、お客様により喜んでいただける製品を提供でき、当社が社会により貢献できる原動力となるはずです。